食事のあと、またソファに倒れこんだ宗に私が用意したチョコレートを渡すと、

彼の機嫌は一気に直り、箱を開け一個を口に放り込んだ。

嬉しそうな顔で、次のチョコへ手を伸ばしている。

3個ほど食べてひとまず満足したのか、ソファに体を横たえてくつろいでい

たが、テーブルに置かれたチョコのパッケージを見てまた思い出したのか、

相手は誰なんだろう……と、ふたたび悩み顔をした。

まったく……今日は何のためにここに来たと思ってるの? と彼に聞きたい

気分だ。 

私があげたチョコレートを食べながら、他の女性の相手の心配をするなんて、

その無神経さに私がいらだっているなんて思いもしないらしい。

浜尾さんからもらった箱からひとつつまみ口に放り込むと、仰向けに寝ている

宗の体の上に乗り、彼の頬を両手で挟んで甘い香りの残る口に顔を寄せた。

驚いた顔をしていたが、私からの甘いプレゼントを受け取ると、とろけるよう

な笑みへと変わった。

口がゆっくりと動き、舌の上で転がされ溶けたのか、やがてそれは彼の喉へと

落ちていった。



「もう一度」



チョコレート色の唇が、次の一個を催促する。

仕方ないわね……というポーズを見せながら、私は甘い粒を含んでふたたび顔

を重ねた。

口の中で溶けかけたチョコレートが彼の唇へと渡っていく。

役目を終えた唇を離そうとしたが、彼の手がそうさせまいと私の首を押さえ

つけ、ビターな味わいと濃厚な香りに酔いながら、彼の甘い支配に身をゆだ

ねた。


ようやく離れた口が、泊まっていけよ……と、私に無理な要請をする。

今夜は言い訳ができないの……ごめんなさい、と謝りかけた私の口に宗の指が

おかれた。



「わかってる。あとで送っていくよ」


「えぇ……次はゆっくりできるように時間をつくるわね」



私の返事に辛そうな表情を浮かべながら、頬に落ちてきた髪をかきあげた。 



「君に言い訳をさせてばかりだ……」


「いつか、言い訳をしなくても会えるようにしてくれるんでしょう?」


「もちろんだ」


「待ってるわ」



来年の今日はどうしているだろう。

何かが変わっているだろうか、それとも、今と変わらぬふたりなのか。

おそらく今、宗も同じ事を思っている。 

私より、もっと真剣な思いを抱えながら……

神妙な顔で見つめる彼の心を少しでもほぐしたくて、甘えた声でねだった。



「ねぇ」


「なに?」


「ひとつもらってもいい?」



私が贈った箱を見ながら言ってみた。

いいよ……

私が願ったとおり、彼はチョコレートをひとつつまむと、包みを開き自分の口

に入れた。

ビターな一粒を含んだ唇を指先で トントン と軽く叩き、ここへ取りにおい

でと誘う。

甘い香りに誘われる蝶のように、私は宗の口元へと近づいていった。