思案顔の宗に 「どうしたの?」 と問いかけた。



「彼女が渡してくれるとき、袋の中が見えたんだ。

もう一個、同じ箱が入ってた」


「これと同じチョコレートが、他にも用意されていたの?」


「うん、誰に渡すんだろう。

俺に渡すのと同じものだから、それ相当の相手だと思うんだが」



それ相当の相手って……

自分は、彼女にとって特別な存在だと信じて疑わないといっているようなもの。

私を目の前にして、よくそんなことが言えるものだと思ったけれど、それを口

にしてしまうところが宗らしい。



「やだ、そんなことで悩んでたの? 

浜尾さん、宗のほかにも渡す方がいるのよ。そうに決まってるじゃない。」


「だから、それが誰なのか気になるんだよ。

アイツに付き合っている相手がいるなんて、聞いてないぞ」



真剣に悩む姿がおかしくて、声をたてて笑う私を宗がにらみつけた。

この人は、自分が言っていることがわかっていないようだ。

いままで自分にだけ渡されていたチョコレートが、他の男性の手にも渡るのだ

と知り、見えない相手に嫉妬しているなんて、きっと気がつかないだろう。

けれど、それほど気になるくらい、浜尾さんは宗にとって身近な存在だとい

えた。



数日前、私は浜尾さんから電話をもらった。

昨日はありがとうございましたと、ラウンジ前の出来事の礼が述べられ、それ

から、教えていただきたいことがありまして……失礼なことだとわかっていま

すが……と言いにくそうに話しはじめた。



『櫻井さんに、あらためてお礼をお伝えしたいのですが、

どのように連絡を差し上げればよいのかと思いまして』


『それでしたら、サクライの企画部へ、彼がそこの……』


『いえ、あの……個人的にご連絡したいのですが……

櫻井さんのお電話かアドレスを、教えていただくわけにはいかないでしょうか。

いえ、やはりそれでは失礼ですね。私の連絡先をお伝えいただいて、

お電話をいただくのはいかがでしょう』



彼女の必死な様子が電話口から伝わってきた。

怖い目にあうさなか、助けてくれた人にあらためて礼を伝えたい、その強い思

いが私への電話になったのだった。

浜尾さんのひたむきな思いに応えたくて、私は櫻井さんへ浜尾さんの意向を伝

えた。 

今夜、ふたりはどこかで会うことになっているはず。

そして、宗が見たチョコレートは、おそらく櫻井さんへ渡されるのだろう。

助けてもらったお礼と、浜尾さんの気持ちも一緒に……