私たちは、宗と山田社長の様子を少しはなれて見ていたが、彼がこの決着を

どうつけるのか興味津々だった。



「あの顔、相当怒ってるわね」


「そうですね。かなりご立腹のようです」


「えっ、怒ってるって? 

近衛さんの顔、僕にはいつもと変わりなく見えるけど」



私と浜尾さんの会話に、櫻井さんが不思議そうな顔をした。



「副社長の言葉が丁寧すぎるときは、要注意です」


「彼、代議士と親しいとか懇意にしてるとか、あぁいうの好きじゃないから」


「えぇ、お好きではありませんね」


「あの様子だと、相手を徹底的に追い詰めるんじゃないかしら」


「このあと、副社長から ”浜尾 『ミウラ』 の資料を集めろ、

どんな些細なことも見逃すな” と言われそうです」


「ふふっ、その言葉、彼が一言一句違いなく言いそうだわ。

また、浜尾さんのお仕事が増えますね」


「いえ、私の仕事ですから」


「二人とも近衛さんのこと、よくわかってるんですね。

さすがというか……いえ、さすがです」



櫻井さんの言い方がどことなくおかしくて、浜尾さんと顔を見合わせて小さな

笑いが出ていた。

おかしいことを言いましたかといいながら櫻井さんも苦笑していたが、ふいに

真顔になり浜尾さんを見た。



「あなたに謝ろうと思っていました。

ずっと気になっていたのに、機会がなくて」


「私にですか? 何かございましたか」


「珠貴さんが誘拐された当日、霧島さんの会社の会議室で会いしましたね」


「えっ、えぇ……」


「あなたと近衛さんとのことを、その……揶揄するようなことを言いました。

失礼なことを言いました。 

浜尾さんもマスコミに追いかけられて辛い思いをしたあとなのに、

心無い僕の言葉で、さぞ嫌な思いをされたでしょう。

本当に申し訳ありませんでした」



謝罪の理由を述べると、櫻井さんは腰が折れるほどに頭を下げたのだった。

長く下げられた頭はなかなか上がらず、彼の悔いのほどが見て取れた。



「どうぞお顔をお上げください。

私、いま櫻井さんからお聞きするまで、忘れていたくらいですから、

嫌な思いなどしていません。本当です。

それより、私のほうこそお礼を申し上げなければ、

先ほどはありがとうございました」



今度は、浜尾さんが頭を下げる番だった。

礼と謝罪を続けるふたりは何度目かのお辞儀ののち 「もうやめましょうか」 

の櫻井さんの声に、互いの顔を見て、ふわっと笑みを向け合った。

和んだふたりの雰囲気に安心して、そうだ、あちらのふたりはどうなったのか

と見ると……

ロビーの向こう側では、宗がもったいぶったように名刺を差し出すところで、

偉そうに受け取った山田社長が、名刺に目を落としたとたん飛びあがるほど

驚き、 



「近衛副社長でいらっしゃいましたか。これは大変失礼致しました」 



ロビーに響き渡るほどの大きな声で平謝りする風景が見えたのだった。

立場は完全に逆転していた。