何事かと彼らを取り巻く人々も増え、声をかけそびれていたのだろうか、

困った顔のホテルの従業員が、走ってきた私たちに救いの目を向けてきた。

そんな状況の中、一段と声を荒げる痩せた男性へ、背中に浜尾さんをかばいな

がら櫻井さんは、毅然と対応していた。



「ここで待ってて……」 



それだけ言うと、宗は悠然と彼らの前に歩み寄った。



「『ミウラ』 の山田社長でいらっしゃいますね」


「そうだが」


「やはりそうでしたか。業界新聞で何度かお顔を拝見しておりましたので、

『ミウラ』 の……そうですか。こちらでお目にかかれるとは」



あなたを知っていると言われ、まんざらでもなかったのだろう。

『ミウラ』 の社長はそれまでの傲慢な態度が和らぎ、得意そうな顔を見せた。

相手の勢いがそがれたのを確認すると、宗は櫻井さんへ 

「ご迷惑をおかけしました。あとは私が……」 と、面識がないような素振り

で告げながら、浜尾さんを連れてその場から離れるように、それとなく促した

のだった。

「ちょっと待て、そっちの秘書に用があるんだ」 と、思い出したように山田

社長が浜尾さんを引き止めたが、宗は、私がお話をお伺いしますと平然として

いる。 


それからは完全に宗のペースで、相手方の言い分を聞きながら 

「なるほど、なるほど」 と相槌をうってはいるが 「そうですか」 と肯定

の返事はない。

やがて手応えのない相手に業を煮やしたのか、山田社長が怒鳴りだした。



「いつまでのらりくらりと話をかわすつもりだ。

こっちは代議士の先生とも親しいんだ。 

言えばすぐにでも大臣に話が通じる立場なんだぞ。バカにするな」


「いえいえ、バカにするなど、そのようなことは……

失礼ですが、代議士の先生のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」



山田社長がある代議士の名前をだして、どれほどつながりが深いのか、さも

自慢げに話が始まり、

それに対して宗は 「さようでございますか」 と、恐れ入ったように聞いて

いた。