もう宗一郎は大丈夫だと、本当に安心いたしましたと、お母さまはそのときを

思い出したように、嬉しい顔をなさった。



「珠貴さん、宗一郎が選んだ方があなたでよかったわ。

私の偽りのない気持ちです。

反対はしないと決めておりましたけれど、やはりお相手の方の

お名前を聞くまでは、ちょっぴり心配でしたもの。 

でも、私がこのように言ったことは、宗一郎には秘密にしてくださいね。

少し心配したこともね」



胸の前で合わされた手は少女の手のような仕草で、秘密にしてくださいねと告

げる声は、懇願するようだった。

わかりました、宗一郎さんには申しませんと約束すると 「ありがとう」 

と、とろけるような笑みを見せてくださった。

宗のお父さまとともに、私はお母さまとも秘密を共有することになったようだ。

不安を取り除く言葉が次々と耳に届き、何度も何度も私は頷いていた。

あなたでよかったわと重ねて言われ、宗から聞いていたものの、この上ない

安心を得ることが出来た。

そうなると聞いてみたいことがあった。

立場としては無礼だと思いながらも、気持ちが先行してしまう。



「私からもお聞きしてもよろしいでしょうか」


「どうぞ」 


「宗一郎さんが選んだ方なら、どなたでも反対しないとお決めになっても……

条件が難しい相手であっても……それでもお認めになるのですか?」  


「えぇ、反対はいたしません。決めるのは宗一郎です。

どんな事態になろうとも、責任は息子にあります。

条件が難しく、結婚へと至らない結果になったとしても、

乗り越えることが出来なかったのはあの子であって、

私たちではありません。

私たちは、成り行きを見守り、息子の判断を受け入れるだけです。

ですが、不首尾など望んでおりませんよ。

ぜひ困難なことも乗り越えてもらわなくては。ねぇ、珠貴さん」



毅然とした答えに感動を覚えた。

お母さまの言葉は、私の背中を押してくれるものだった。 

頷くだけの私に、優しい声がかけられた。



「今日お会いしたこと、宗一郎にはナイショにしましょうね。

今度紹介するよなんて言っておきながら、いつまで待たせるつもりかしら。

けじめをつけてもらわなくてはね。そのときを楽しみに待ちましょう」



口元に人差し指をたて 「ナイショですよ」 ともう一度告げると、優雅な

お辞儀を残して、その人は帰っていった。