歩きながら、旅行でこちらへ来たこと、それは結婚記念日の恒例の旅行である

ことなどが語られたあと、この時間は主人と別行動で夕方まで時間があるので

すがと、暗に私と話がしたい旨が伝えられた。 

ご一緒させていただきますと返事をすると 「よかった……」 と、心の底

からの安堵の声が聞かれた。



「急にお誘いしてごめんなさいね。

このようにあなたにお会いしたことを宗一郎が知ったら、

きっと怒るでしょうね」


「あの……」



このような場合、どのような返事をするべきなのかわからず、あの……と

言ったっきり言葉に詰まったが、それはお母さまも同じなのか、先ほどと似た

ような展開になり、またも二人とも言葉がでてこない。



「ふぅ……これでは、お話が続きませんね」


「申し訳ありません」


「あら、どうしましょう。珠貴さんを困らせてしまいましたね。

あなたとお話したいことが、たくさんあったはずなのに……」


「すみません」


「何も悪いことをしていないのに、謝ってはいけませんよ」


「すみません。あっ……」


「ほら、また。ふふっ」



私も笑いがこぼれていた。

笑ったお顔を見せてくださいねと言われ、はいと素直に返事をした。



「お聞きしてもいいかしら」


「はい」


「宗一郎は、私たちのことを、あなたにどうお話をしたのかしら」



なんの前置きもなく、突然切り出された話に驚いたが、まずは聞かれたことに

答えようと、お母さまの顔を真っ直ぐ見た。



「宗一郎さんは……ご両親さまへ、交際している女性がいる、

ほかの方のお話は断るようにと伝えたからと、そのようにおっしゃいました」


「それだけ?」


「それから、わかりましたと、お母さまから返事をいただいたと

お聞きしました」


「なんてことでしょう。珠貴さん、あなた、それで納得なさったの?」


「……はい」
 


納得していないから、宗にどうして言ってくれなかったのと詰め寄ったのだが、

お母さまにそう言うわけにもいかず、ものわかりのいい顔で頷いた。



「まぁ、あの子ったら、たったそれだけ……

宗一郎は、彼女は一緒に戦っていける相手だと思っていますと、

きっぱりと宣言するように申しましてね、私、感動いたしましたのよ」


「一緒に戦っていける相手だと……そうおっしゃったのですか」


「えぇ、他の女性と結婚するつもりはない、あとは静夏に聞いてくれと、

それだけ言うと帰ってしまいました。

宗一郎なりに、精一杯の意思表示だったんでしょうね。 

私は、宗一郎が決めたことに反対はしないと決めておりましたけれど、

それほど固い決心をしていたのかと、話を聞きながら感心いたしました。 

ですから、わかりましたと、一言だけ伝えました。

これは親の欲目ですが、私には息子がとても頼もしく見えましてね」



まさか、このようなお話をしてくださるとは思いもよらなかった。

私のことを知るために、わざわざ訪ねていらしたとばかり思っていた。