「あー…心臓がバクバクするーっ」
「確かに好きな人に送るのって緊張するよねー。一分一秒がものすごい長く感じるし。」
「そーそーっ」
「ね、ただ待ってるのもつまんないから恋バナしよーよ。」
「あっ、賛成ー」

みっちゃんの提案にゆりなが手を上げて同意する。

「…ゆりなが言うならともかく、みっちゃんがそんなこと言うなんて珍しい。」
「だってものすっっごい気になる話があるんだもん。ねーゆりな?」
「へ?あ、そーいえば。あゆの恋バナってちゃんと聞いたことないかも。」
「でしょーっ?この際だから徹底的に聞いてあげようかと。あゆなってばいっつも聞いてばっかで自分のこと話さないし。」
「そ、れを言うならみっちゃんもでしょー?」
「まぁね。けど、とりあえず今日はあゆなの話ってことで。」
「はぁー…」

反論虚しく、2人は聞く気満々で私を見つめる。

こぉなったら、一秒でも早くメールが来る事を祈るしかない…

「センパイを好きって思うようになったのは、さっきも言った通り高2の6月頃で…」


ーーーーー
2年前ー

「あゆーっ帰ろっ」
「実華、部活は?」
「試験前は大会に出る人以外は練習禁止ー。」
「あ、そか。再来週から期末だもんねー。…ってことは、彼氏さんは大会出るから部活か。」
「そーなんだよぉー。一緒に帰れないし、部活はできないし、再来週から大嫌いな期末だし…もぉ散々だよー…」
「あははっドンマイ。」

高校2年生の初夏。
私たちはそんな話しをしながら駅へと向かっていた。

「あーもー勉強したくなーいっ部活したーいっ」
「どおせ、勉強なんてしないくせに。」
「えへへ…」
「ダメだよ、勉強しなきゃ。留年するし。」
「「っ!?」」

ふいに背後から声が振ってきて
私たちは思わず体を震わす。

「ハルっ!!」

その声の主は、遥輝センパイでいつの間にか
私たちの後ろを歩いていた。

全然、気づかなかった…

「ハルこそ、勉強しないくせに。」
「俺は一夜漬けタイプなの。」
「えー…ウソだー…」
「……」

実華と遥輝センパイはとても仲が良く
実華もセンパイのことを”ハル”と呼び捨てにしていて
会話も当たり前のようにタメ口。

私は何となくその中に入れずに
2人に気づかれない程度に離れて歩いていた。

…そりゃー1年半も同じ委員会なら仲良くもなるよねー。
しかも実華の話しだと席も隣同士らしいし…
仲良くないほうがおかしいか。

「…だって!!いくよね?あゆ。」
「へ?ごめん、聞いてなかった。何?」
「だーかーらーセンパイが過去問見せてくれるから図書館行かないかだって。」
「え、あ、うん。」
「どうしたの?あゆな?何かボーってしてない?しかも何かちょっと遠いし。」
「ごめん、ごめん。」

しまった…考え事してるうちにスペースあけすぎた…

「にしても、実華が自分から勉強するなんて……明日、槍でも降るんじゃないの?」
「ははっ!!」
「ひっどーいっ!!私だってやれば出来るんだから。」
「ふぅーん…」
「何さー…」
「あはははっ!!」
「ハルも笑ってないでフォローしてよぉー…」
「…まぁ、うん。頑張ろうな。」
「ハルーっ!!」
「…かー…実華ーっ」

そんな会話をしていると
遠くの方から実華を呼ぶ声が近づいてきた。

「たっくんっ!!」

その声を聞くなり、実華は声のする方へと走っていく。

「…実華の彼氏?」
「はい。確か、隣のクラスの石井拓弥。実華と同じ陸上部です。」
「へー…」
「あの石井って人、ウチらのクラスじゃ有名ですよ。頭良くて運動も出来てそのうえルックスも整ってて…ただ浮気がハンパじゃないらしくて。」
「浮気?」
「けど実華と付き合ってからはそのうわさ、聞かなくなりましたよ?って言ってもここ1週間ですけど。ま、浮気なんてして実華のこと傷つけたら私が許しませんし?」
「それは頼もしい。」
「当然ですよ。何年、あの子の親友やってると…っ。」

2人を見つめるセンパイの目がどこか寂しげで
私は思わず言葉を失った。