それのおかげなのか、あの1度きりで影は姿を現さなかった。



そんなことを考えていると、いつの間にか職場である県立南高校に着いていた。

誰かに怪しまれないよう、手に持っていた札をそっと鞄の中へとしまう。



私は2年生の副担任であり、また音楽の講師である。

朝、担任の岡本先生が休みとの連絡があった。私は名簿を持ち、HRの準備をする。岡本先生が休みの場合、副担任である私が指揮をとらないといけない。



確か、今日は転校生が来るって岡本先生が言ってたっけ?


名簿には新しく"西野礼央"という名前が付け足されていた。



西野くんか。どんな子なんだろう?



始業のチャイムが鳴り、私は急いで教室に向かう。


廊下にはまだ生徒の姿がチラホラあり、ノロノロと教室の中に入っていく。

「ほら、早く中に入りなさい。」と、私は生徒に促す。