それから二人は、若き頃のように旅をしました。未来に、過去に。様々な土地の、時代の人々に出会いました。ときには苦しむこともありましたが、ときには嬉しくて仕方がないこともありました。

そうして、おじいさんとおばあさんになった二人は、家のベンチに座り、夕日を眺めておりました。ダイアモンドの如く瞬く、海に反射した光。夕焼け色に染められた空。柔らかい光に包まれて、二人は寄り添っていました。

「これが、最後の願いだよ」

しわしわの手で懐から一冊の本を取り出すと、男はこう言いました。ボロボロの洋服は、郵便屋さんのものへと変わっておりました。きらきらとした瞳。若々しい声。鼻の上にちょこんと乗った丸眼鏡が印象的な男が、少女に問いかけます。

「この本はどの時間へも連れて行ってくれるんだ。さあ、君はどこへ行きたい?」

彼女はゆっくりと答えました。

「今、ここが、なによりも幸せよ」

少女のように笑う彼女を見て、彼は優しく微笑みました。花畑の香りが風に乗っては流れてきます。心はいつよりも穏やかで、風はなによりも和やかです。暫くして、彼は眠ったかのように、動かなくなってしまいました。