「ぼくはね、いつか消えてしまうんだ」

長閑な日の正午、男は言いました。

「時間を旅行する対価に、ぼくの時間は無きものになるんだ」
「つまり、どういうこと?」

冬の雪がはらりはらりと舞い落ちます。天使の羽のように軽やかに、哀しみのようにゆっくりと。白銀の世界。空だけは快晴で、それがいっそうに心を締め付けます。

「死んだら、あなたの記憶にも残れない」

ねえ、ならば。

男の腕を掴んで、年を取っても、老けてしまっても美しい彼女は微笑んで言いました。

「わたしではなく、あなたが覚えていて」