たったひとつしかない空。
たったひとつしかない海。
たったひとつしかない雲の形。
たったひとつしかない命。
手で握ったおにぎりの形もたったひとつしかない。
私の恋愛は綺麗な円を描いた事がない。それは私が握ったおにぎりみたいな不格好な丸。それでも私は綺麗な丸や三角のおにぎりを買うより、自分で作ったおにぎりを晴斗に食べてほしい。
お米を研いで、炊飯器に入れてスイッチオン。ツナにマヨネーズとほんの少しお醤油を入れて混ぜる。昆布には白ゴマを振る。炊きたてのご飯に、具を入れて握る。最後にのりを巻いて、私の恋の形が、愛の塊が出来上がる。
今、柔らかくて優しい体温が私の唇に触れている。
ぷるんぷるん
それは晴斗の唇。初めて触れた唇だけどその質感から晴斗のものだとわかる。
学生の頃から友達としてずっとその唇を見てきたから。
いつの間にか、友達というフラフープのような輪が私と晴斗の周りに存在していて、友達という関係を守るように回っていた。友達以上の『好き』という言葉は口に出せなくなっていた。出してはいけないそんな気さえしていた。
だから今、すごく幸せ。真っ白な雲を通り越して宇宙まで飛んで行っちゃいそうなくらい、すっごく幸せ。
このまま眠っているふりをしておこう……。
だけどね、晴斗。
キスは女性を深海の眠りから覚ます魔法なんだよ。
もし、晴斗の唇がもう一度私の唇に触れたら、その時は目を開けるからね。
ふわりふわり
とろんとろん
ぷるんぷるん
もう一度キスしてほしい。
ドキドキするのに安心できるキスを。
私は美人でも可愛いわけでもない。大学も高望みし過ぎて只今、浪人中。性格も平凡という言葉が似合うくらいの普通。特別優しくもない。得るものより失うものの方が多い生活をしてきた。
だけど、好きな人にとって、たったひとりの存在になりたい。
晴斗にとってたったひとりの女になりたい。
私ね、晴斗の事が好き。大好きだよ。
「遥、好きだ……」
晴斗が私の想いに答えてくれた。
その瞬間、目蓋で感じる鮮やかな太陽の光で幼い恋が満月のような蜜となり、大人の愛というページが捲られた。
一度捲られると、命ある限り、真っ白な雲の下でも、密色の月の下でも、昼夜を問わず愛というページは捲られ、綴られていく……。
深くて熱い二度目のキスを交わしながら目を開けると、さっきの三毛猫が蜜色の瞳でこっちを見て啼いた。続きは雲のようなベッドの上で、と。
ふわりふわり
とろんとろん
ぷるんぷるん
【真っ白な雲の下で*END】
*リフレイン*
【高鳴る胸を愛した手】
タブーは発酵を繰り返しながらこれからも毎朝続くのだ。
蜜を塗ったパンのように愛を滴らせながら。
【ラブホテルのベッドの上で】
勿論、殺されたくはないけれど、それくらい愛されて最期の眠りにつきたい。
神様、その願いくらい叶えてください。
よく頑張って生きてきたね、と……。
【甘ったるくて熱くて不自然なキス】
私の身体を火照らし発情させる新書を図書館で見つけた。
【美しすぎる上司】
私は指輪のない櫻井部長の左手薬指を口に含んだ。ガラス細工のように繊細なその指先が私の口という熱い高炉で溶けていく。
これが私の密と蜜の始まり。
身体も心も、ここまで感じたらもう引き返せない……。
【秘密のラブスイッチ】
今宵もお互いのスイッチがONになり、狂ったようにキスをする。
愛の歌を奏でるように、お互いの唇と唇に蜜を絡めながら。
【私たちの関係】
───愚かや過ちという名の鎖で三人の足が繋がれたとしても私たちなら生きていける。
望み望まれ、想い想われ、私たちなら堂々と手を繋ぎ、胸を張って生きていける。
【日曜日の朝】
また来週の日曜日も腕枕をしてもらって、フワフワのホットケーキを作って、穏やかに過ごせますように……。
【その色はグレー】
頭ひとつ分のスペースがあれば悲しみを抱えた不満足な愛から抜け出せる。猫が狭い所を擦り抜けられるように。
【孵化した黒い羽】
助けて欲しいのは、救って欲しいのは私だと訴えかけるように、汗と夜景をその羽に映しながら。
!!
今、ベッドの上で私の背中が軋むように音を立て、清らかに羽ばたいた。
【好みのタイプ】
世界で一番大好き。
【普通という人生の長針】
毎月子宮から落ちるその血液のように私の目から涙がぽとりぽとりと落ちた……。
私、女なんだ。
【重なる鼓動】
私のストレートで居心地の良い青春ドラマが今、多摩川沿いで幕を開けた。
【生まれてきてよかった】
私たちには生まれてきた時に親に希望を託された名前がある。
その名前を大切にする大地くんはきっと命を大切にする人。
生まれてきてよかった。
私らしさをキスで塞がれながら朝陽の中でそう思っていた。
【リアルキス】
トキメキ度が振り切れ、瞬也さんの唇が私の唇に触れました。
優しくて柔らかくてその感触が二人の吐息を誘うドラマのような……リアルキス。
【悪戯な後輩】
「その時はストッキング脱いでくださいね、鮫島先輩。……生クリーム塗りたいから」
【愛されるカラダ】
カラダの内側から外側まで柔らかく包み込む羊水のように。
【チョークの秘密】
明日の成人式で私は振り袖を華やかに身に纏う事だろう。
【幸せの味】
そのメープルに二人の『幸せ』という文字が溶けている。だから幸せの味がするのかもしれない。
【恋愛の行方】
私は愛する辻井さんと家族になる。それが私の幸せ。
【ソフトクリームタイムリミット】
どちらも別れを切り出さずに自然に消えて行く恋。
ソフトクリームタイムリミット。
【悲劇のヒロイン】
変わる事は怖いけど、私が勇気を出して変わった事で、長かった梅雨が終わり、私と亮の間に美しい虹が架かった。
一生消える事のない虹の橋。
【向日葵】
見上げたら、少し背を屈めてくれたあなた。
つま先立ちをしたら届きそうな距離に、今、あなたはいます。
【映る裸のダイアモンド】
キラリと滴る、最後の一瞬まで、果てるその一瞬まで輝きながら、私も鏡のようなこの瞳に裸の『君』を映す……。
君の無警戒な瞳と裸はいつだって『私』だけのもの。
【高速道路を助手席で】
この車が高速道路を下りた後に起こるであろう事を窓の向こうに熱く、蜃気楼のようにイメージしながら……。
【夫婦愛】
いつか母に「生んでくれてありがとう」と言える人になりたい。
いつか父に「育ててくれてありがとう」と言える人になりたい。
母が父の足の爪を切っていた、あの陽の当たる縁側で……。
【一糸纏わず】
『手は一糸纏わず全てを曝け出す裸体である』
職場とは異なる場所で心が密会すればする程、蜜は手という裸体で掬われていく……。雨粒に濡れた蜘蛛の糸のように煌めきながら。
【真っ白な雲の下で】
一度捲られると、命ある限り、真っ白な雲の下でも、密色の月の下でも、昼夜を問わず愛というページは捲られ、綴られていく……。
深くて熱い二度目のキスを交わしながら目を開けると、さっきの三毛猫が蜜色の瞳でこっちを見て啼いた。続きは雲のようなベッドの上で、と。
ふわりふわり
とろんとろん
ぷるんぷるん
生命にはタイムリミットがあり、永遠は存在しない。
寿命や運命に差はあれど、この身体はやがて尽きる日が来る。
どんなにもがいても、時の流れには逆らえない。
あと何年生きられるのだろう?
考えてもわからない。
だからこそ、今を精一杯生きて、精一杯恋をして、精一杯愛されよう。
不満足な日常を時に嘆きながらも、今を精一杯生きて、精一杯恋をして、精一杯愛されよう。
人生という方位磁石が荒波や樹海で壊れたとしても、精一杯生きていれば、東西南北、恋する人の元へ、東西南北、愛する人の元へ辿り着ける。
まだピンク色だった学生の頃の恋。そんな純粋な恋はもう要らない。
一度蜜を纏ったら艶やかなその刺激に後戻りできないという事を知ってしまったから。
大人の恋には愛がある。
愛は生きてきた証。
何千万回抱き合ってもただ抱き合うだけじゃ足りない。
隠し持った秘密でさえも密着するほど絡み合い、楓の樹液のような蜜を纏う。
心は密で身体は蜜。
命ある限り、命と共に滴り堕ちる大人の恋……。
【密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋*END】