「紅葉は出掛けないの?」
「うん。まぁ、眠いしな」
煙草を吸い終えると紅葉は私と向き合って座った。
「楓、やりたいようにやれば良いよ」
「え…?」
「好きなようにやれば良いよ」
意味の分からない事を言う紅葉は優しく笑った。
「紅葉も一緒に行く?」
「行かないよ。ま、神谷じゃなかったら行くかもしれないけど」
「何で?」
「何でって…
あと、可愛いんだからもう少しお洒落してみな?神谷と遊ぶ時ぐらいは!
じゃーな」
そう言って部屋から出て行った。
一人で服なんて買いに行けないよ。
時刻は夜十時半になった。
電話がきて外へ出るとバイクで来ていた。
「ちょっと飛ばすからちゃんと掴まっててね」
ヘルメットをかぶる。
夜風は少し寒い。
バイクは凄い速さで町中を抜けて行く。
どこに行くか分からずに目を細めて周りを見ていた。
けれど顔まで冷たくなってきて
しがみつく手の力を強めて背中に顔をくっつけた。
神谷は寒くないのかな…。
「着いたよ」
久々に地面へ足を着けた気になった。
「わぁ…」
目の前に広がるものは初めて見る夜景だった。
光がユラユラ揺れている。車や建物の光が。
それを眺めていると神谷は私の隣に来てニコッと笑った。
「かえちゃんさ、人が居なければって言ったよね」
「うん」
「それだとこの夜景はなかったよ。
単純で良くない?人が居るからこの夜景があって、それを今二人で見てる。
俺はかえちゃんと知り合えて良かったと思う。
難しく考えなくて良いじゃん」
そう言ってニカッと笑った神谷を見て
私の中の何かが弾けて消えた。
その笑顔は神谷の本当の笑顔な気がして
私も小さく微笑んだ。
暫く黙ったまま二人で夜景を眺めていた。