「ご飯だよ!」

気持ち良く寝ていたら兄の紅葉[くれは]に体を揺すられて起こされた。

「うん…?紅葉…
家に居たんだ」

「暇だったからね」

「そう。起こしてくれてありがとう」


二人で階段を下りる。
あまり帰って来なかったのに最近はしょっちゅう家に居る気がする。
その方が私は嬉しいが。


リビングへ入ろうとすると
やっぱり両親の喧嘩が聞こえてきた。



静かに座り黙ったままご飯を食べる。
喧嘩の内容なんて聞きたくもない。



「楓も!少しくらい家事とか手伝ったらどうなの!?」母のキンとした声がリビングに響く。


あぁ、またか。

視線も変えず黙々と食べ続ける。


「楓に当たんなよ」
紅葉は声を低くして言う。
いつもそう。紅葉はかばってくれる。

「紅葉もよ!もう少しちゃんとしなさい!!」
私をかばって紅葉も怒られる。


もう慣れてきた。
紅葉にはかばわなくて良いよって言ったけど
夫婦喧嘩に私達を巻き添えにするのは嫌だ、と言ってくれた。


家族で紅葉だけ。
私の話をちゃんと聞いてくれる。
いつも話し掛けてくれる。
私を理解してくれる。

だから紅葉だけは好き。



母の怒りが酷くなる前に部屋へ逃げ込んだ。