「お母さん。
裁縫道具どこあったっけ?」
草太とのランニング終了後お風呂からあがったあたしは、リビングでお父さんと晩酌中のお母さんに聞いた。
「そこの電話の棚にあるよ」
お母さんは片手に枝豆を持ったまま、リビングのドア横にある棚を顎で指す。
「あんたが裁縫とか珍しい」
さやから豆をだしてパクリと食べるお母さん。
「あ~うん。ちょっと草太にね」
あたしは言いながら棚の引き出しを開け裁縫道具を取り出す。
「なんかフェルトとかあったっけ?」
「フェルトはないけど、なんか色んな布があるでしょ?」
裁縫道具のフタを開けると、小物を作った残りの布が何枚か入っていた。
草太のエナメルバックについていたお守りを、あたしも作ってあげようと思ったんだけど……。
この布じゃ、野球ボールの形は作れないな……。
「草太くん。明後日から試合だっけ?」
「うん」
あたしは使えそうな布を何枚か選びながら返事をする。
「勝てばいいけどねぇ。
そしたらあんた、楽器吹けるんでしょ?」
お母さんに言われ、あたしは小さく微笑みながら頷いた。