「新堂さん。すごい!!
音、ちゃんと出るようになってるじゃん!!」
「うん。ありがとう」
野球部が1回戦突破したことでよりやる気の出たあたしは、体力づくりと基礎練を繰り返してようやく何の障害もなく音が出せるようになった。
この短期間で以前の自分を取り戻せたのは、まだあたしの中に感覚がきちんと残っていたからだと思う。
夜は毎日ランニングに腹筋に背筋にって、肺活量を増やす為の努力もしているし、久しぶりに楽器を握った時よりロングトーンが続きやすくなった。
「もう曲吹いてもいい頃じゃない?」
新堂さんが、空き教室で練習していたあたしに楽譜を何枚かくれる。
久しぶりに見る音符。トランペット2nd。
長谷川さんが1stだ。
「野球部、最近調子いいみたいだし、このまま2回戦3回戦って勝ち進んでいくと思うから。新堂さんも今日から合奏に参加してよ」
長谷川さんに言われて、あたしは合奏に加われる嬉しさと緊張感がない交ぜになりとても複雑な気持ちになった。
「なんか、悩んでる?」
楽譜を眺めながらさえない表情をするあたしを、長谷川さんが覗き込んだ。