蒼空の母に負けて、優羽は佐渡邸にお邪魔する事になった。


〔何なんだこの展開は…〕


優等生で人の事をよく見ている優羽だが、蒼空の事は未だに読めない。

それなのに、さらに蒼空以上の強者の母が登場し、優羽は完全に相手のペースにのまれてしまっていた。


蒼空の母に言われるがまま家に入り、一階のリビングに誘導され、ダイニングテーブルの椅子に座らされた。


優羽は特定の友人はおらず、友人宅に遊びに行くという経験は一度も無い。


今まさに人生初の経験をしているのだ。


〔何がなんだか…〕


優羽は頭の中で、今、自分が置かれている状況を整理しようと必死だ。


そんな事とは知らず、佐渡親子は家の中でも同じ調子で会話している。


「とにかく、あなたも座りなさいよ~。お茶出すから待っててね~」

「はいはい」



優羽の隣に蒼空が座った。


「…優羽ちゃん…ごめんね…?」


蒼空が小声で話しかけてきた。


「…マイペースなお母さんだな…。お前そっくり。」

「えーっ!?嘘だぁー!!私あんなにひどくないよー!?」


蒼空は大声で叫んだ。


「えーなぁにー?もしかしてお母さんの悪口~?」


キッチンから蒼空の母が口を挟んだ。


「もー違うから!お茶早くしてよね!!」

「今準備してまーす」


優羽は苦笑しながら、


「ほら、そっくり。」


と、蒼空に言った。


「ふーんだ!」


蒼空は頬を膨らませ、口を尖らせて拗ねて見せた。


それを見て優羽は…


〔……かわいい……〕


と思った。


そしてそう思う自分は今、正しい判断ができていないんだと自分に言い聞かせた。