キーンコーンカーンコーン・・・


2時間目の始まる本礼が鳴る。
さっきまで廊下にうろついていた生徒の、ほとんどが各自教室に戻っていく。

あたしはその生徒の波に、逆流して図書室へ向かう。
いわゆる、サボりというヤツだ。



架翠学園は日本でも5本の指に入る実績を持つ、超エリート校。
偏差値は、89点。平均点数は、常に90点。
ありえないぐらい、頭のいい人しか入れない学園なのだが。


しかしその栄華な実態は表向きのみ。


いざ学園に入ってみると、中は確かに頭のいい人が集まっている。
だから、頭のいい人は優遇され、少しでも平均点より下だったら軽蔑的な目で見られる。

次のテストでは満点に近い点を取らなければ、3ヶ月はその理不尽な生活を送る羽目になってしまう。



そんなテスト社会なこの学園で、サボりなんて暇ができるのは特別な人間だけ。

学年主席と次席のみ。


1学年主席が、あたしなんだけど。
その次席が――――



と、こんなことを考えているうちに、いつもの場所についてしまった。



――――――ガチャ…



かなり長めの螺旋階段を上り、その最上階の扉を開く。



そこはそんな重苦しい学園とは、少し切り離された、そんな自由な気持ちになれる。

東棟の5階に位置する、架翠第三図書館。


普段から利用されないこの図書館が、あたしの唯一のお気に入りの場。
あたしは一番端の窓際の席に腰掛ける。


他の生徒は2階の第一図書の資料を使用しなければいけない、という暗黙のルールが存在している。

それもくだらないとは思うが、“あたしだけ”という、そんな気分にさせてくれる、この空気が好きだった。



そんな落ち着いた気分もつかの間、閉めたはずの扉が開く音がした。
あたしにはその小さな音が、十分気分を害するものだ。

来たか――――っ!



「・・・チッ」



ヤツの足音がこつこつと、あたしの席のほうに近づいてくる気配がする。
思わず、舌打ちを隠せない。



「あれ?黄崎サン?」



「・・・」



「学年主席のくせに、またこんなとこでサボってんだ」