たくさんの奇跡の中にわたしたちがいることを身をもって知った。

新撰組の崩壊は止められなかったのか。

公開が渦巻くなかで美桜と土方は立ち尽くしていた。

「としを頼んだ」

そう言った近藤の顔を思い出す。

悲しそうででも優しくていつも優しかった近藤さん。

ありがとう―‐

感謝の言葉しか思い当たらなかった。


土方が旧幕府軍の先鋒軍の参謀に推薦されたのは桜の咲き乱れる春だった。

夜半、今日は満月だった。隊士は皆眠っている。

土方は自室で物思いに耽っていた。

「土方さん―‐」

美桜だった。

土「まだ寝てないのか」

「はい、すいません」

土方は優しそうな顔をしていた。

土「次の戦が近い。お前も休め」

その言葉が嬉しくて美桜は土方の命令を素直に受け止めた。

「失礼します」


慶応四年―‐四月末。

顔色が悪く、少し痩せた男の姿があった。

それは―沖田だった。

沖「近藤さんが死んだ?」

沖田以外の隊士にもこのことはしれわたっていた。

沖「僕がいたら。病気じゃなかったら…」

美桜に病気を治して貰いたいと言う気持ちが無いことはなかった。

だがリスクが高すぎる。

沖「自分の命より仲間の命でしょ」

沖田がぼそっと微笑んだ。

離れの屋敷に近寄るものはいない。

沖「新撰組に戻りたい。」

沖田のせめてもの願いだった。



明治元年 十一月。

蝦夷地、松前には元新撰組の隊士が集まっていた。

土方たちは松前を倒すため戦っていた。


この戦いの末、旧幕府軍は函館に上陸することができた。


まだ、幕府は戦っていた。

仲間のために―‐




蛍が飛び交う日の夜。

「失礼します」

土「美桜か。」

土方の顔が緩む。

「俺は何のためにやって来たんだろうな。お前を巻き込んで」
「…私は大丈夫です」

土方に抱きすくめられる。

「お前を大切にしたい。死なせたくない。…」

「…」

土方は抱き締めたままだ。

「俺は…お前が…好きなんだ」

嬉しくて視界が霞む。

「わたし…も…です、土方さん」

「そばにいてくれ…」

土方の唇と重ね合わせた。


五月十一日―‐

函館ので戦が始まった。

「かかれ―!」

突然、土方の横腹に激痛が走った。

土「うっ……」

「土方さんっ」

土「美桜、ここを離れるぞ」

「はい」

血だらけの体を支え森林に歩き出した。

少し美桜のちからを分けて進む。

野原にたどり着いた。そこには夜桜が広がっている。

土「綺麗だな…」

「はい…」

二人は少し見とれていた。


「来年も桜を見ましょうね」

「あぁ…」

土方の力がなくなってきているのがわかる。

土「お前を愛してる」

「離さないでください」

土「そのつもりだ」



「眠いから少し寝させてくれないか」

土方が言う。

「はい。分かりました。」

二人は桜の樹のしたにやって来た。

「来年も再来年も見ましょうね」

土「あぁ…」

「私たちが結婚とかあるんですかね」

土「この戦いが終わったらな…」

「たのしみですね。」

土「そう…だな…」

「土方さん?」

土方が言葉を返さなくなった。
「死んじゃだめです…土方さん」

二人は桜に包まれていた。

この時は永遠のようで―‐

悲しくはかなかった。


愛する人たちの死―‐

山南さん、藤堂くん、近藤さん
そして、沖田さん。


あの楽しかった頃には戻れない。

儚く淡い夢だったのか

確かに彼らがいたという証は私たちの中にある。

誠の旗を掲げた仲間である限り私たちの糸は切れない。

大丈夫。

繋がっている。確かにみえる。
新撰組の誠の旗が―‐


後書き

最後まで読んで頂きありがとうございました。

この小説の名前の意味は

桜の華は幸せな恋を―‐

という意味です。

次ページから新撰組のその後を書きたいと思います