奥原朔の唇があと数センチで触れてしまう距離で、聞こえた声。
「は?誰だよ……?」
押さえられていた手が緩んだのに気づき、あたしは素早く逃げる。
解放されてもなお、恐怖で心臓がドキドキしている。
よかったあ……。
身体の力が抜けて、その場にしゃがみこんでしまった。
「クラスメイトの顔も知らねーってか?………井岡篤樹だけど」
おちゃらけたように言ったかと思えば、最後にはドスの利いた声を出すのは……井岡篤樹。
「はっ……、お前が何の用だよ」
バカにしたように笑った奥原朔は鋭い目付きで井岡篤樹を見る。
「何って……」
暗がりの路地で、井岡篤樹からじっと見つめられる。