突然、千尋が口を挟んだ。


「え……」

「母さんからちゃんと聞いてねーじゃん」


それは、聞けなかったから。

子供ながら聞いちゃいけないことなのかな、って。


………それが、言い訳なのかもしれないけど。



「いいんだよ、聞かなくても」


それは、あたしが千尋に向けて言った言葉だったはずなのに。



「聞かないとダメだよ、知紗」

「っ……篤樹…」


強い光を宿した篤樹の瞳に吸い込まれるように目が離せなくなる。



「井岡先輩の言う通り。ちゃんと聞こうぜ、姉ちゃん」


そう言った千尋がリビングと廊下を隔てるドアの方を見て「あっ」と声を上げた。