僕らがいたところから教室までは
さほど遠くはない。

橘と並んで歩くが
お互い無言のままだ。


2人の靴音が不規則に聞こえる。


僕らの教室へ近づけば近づくほど
騒がしくなる。


2人の靴音も掻き消される。


ここまで来るのに
かなりの時間がかかったように
感じるのは、足が重いからだろう。

教室のドアの前に立つ。


橘との時間は
とても心地よいものだったけど
それは僕にとって残酷だった。

僕は今まで知らなかった
甘い、甘い蜜を知ってしまった。

知らなければ今までの現実を
今まで通りに過ごせたのに。

甘い蜜を知ってしまった僕は
今まで通りの現実から
逃げ出したくて堪らない。