(わざと、ですか。)
はぁ、とため息をつけば
「昨日、たまたま見つけただけだ。」
と胡散臭い笑顔を向けられた。
「暁、どうしたんだ?
…こっち座るか?」
僕らのやり取りが聞こえない橘が
自分が座っていたところから
少しずれて、スペースを作ってくれた。
こうなってしまえば、
ここからは立ち去れない。
「あ、うん。ありがとう。」
資料室と呼ばれるこの部屋には
今まで足を踏み入れたことが無かった。
入り口正面の大きな窓がある面、
そこに橘は背中を預け
地べたに座っているのだが、
その面以外には
ファイルや分厚くて古くさい本が
言葉通り、所狭しと並んでいる。
「……。」
「……。」
お互い何を話すわけでもない。
それでも、なぜか嫌な感じはしなかった。
むしろ、この時間の流れを
忘れてしまいそうなこの雰囲気は
家にも、もちろん教室でも味わえない、
とても心地良いものだった。