「……その目、やめろ」
「……?」
困ったような表情を浮かべて言う兄に、私は首を傾げる。
……その目……?
「……友美」
兄の口が私の名前を呟いたその時だった。
バタン、と玄関のドアが閉まる音がした。
「!」
私も兄も、ビクッと身体を震わせる。
パタパタという音が近付き、居間のドアが開く。
「ただいまー!隼人聞いてよ!もう、田仲さんってば、ひどいのよぉ~!……って、あら?友美帰ってたの?」
荷物をソファの横に置きながら、母が私の方を見る。
母の笑顔に少し、気持ちが落ち着く。
一気に現実に引き戻されて、冷静さが戻った。
「……うん」
「早かったのね~今日デートだったんでしょ?」
「……ん」
「え?何か元気ないわね?」
「……っあー、こいつ、圭斗とケンカしたみたいでさ、落ち込んでるからそっとしておいてやって?」
「まぁ、まぁ!そうなの?早く仲直りしなさいよ~!私、隼人より圭斗くんを息子にしたいんだから!」
「わっ、ひでぇ!オレ、実の息子なのに!」
「圭斗くんの方が気が利くし、なにより中身も外見も男前でカッコいいじゃない?ふふっ」
「……確かにオレにはあいつに勝てる要素なんてこれっぽっちもねぇよ、どうせ」
「隼人は愛想だけはいいんだけどねぇ」
「うっわ、『だけ』ってとこが超傷付くし」
あははは、と笑い声が起こる。
私も同じ空間にいるはずなのに、二人の会話がすごく遠く感じた。
……何で、私は他人事のように聞いてるんだろう…。
血の繋がった家族なのに――。