でも。

私の想いは叶わず、兄は私から離れていってしまう。

兄は濡れた私の唇をきゅっと親指で拭った後、眉を歪ませ、嘲笑した。


「……ごめん。ほんと、オレ最低だな」

「そんなこと……っ!」

「こんなことしても、意味なんてないのに。ただ、おまえを傷付けるだけなのに」

「や……」


ふるふるっと首を横に振る。

嬉しかったのに。


「お兄ちゃん」

「友美?兄妹に戻ろう?」

「!嫌だよ……!」

「……今のは、忘れて」

「忘れることなんてできるわけない!だって、ずっと求めてきたものなんだから!」

「……それなら。もう手に入ったってことだよな?……これで終わりだ」

「嫌……」

「友美には幸せになってほしい。頼む。オレの願いを叶えてくれないか?友美にしかできないんだ」

「っ、そんな言い方、ズルい……!」

「頼む。……頼む 」

「っ!」


頭を下げる兄の姿を見つめることしかできない。


「……どうしても無理なの?」

「……無理だ」

「……どうしてもダメなの?」

「……ダメだ」

「……諦めたくない……っ」

「……諦めて。頼むから」


何を言っても、もうダメなの?

本音ももう聞かせてくれないの?


「…………私のこと……好きでいてくれてた?」

「………………だから、ちゃんと幸せになってほしい」


やっぱり肝心なところは言ってくれない。

……でも本当はわかってる。

これが兄の優しさだ。

この優しさはきっと、揺るぐことはない。