『俺のわがまま、聞いてくれる?』

『え?』

『もう少し、俺のこと考えてくれないかな?……もし迷ってくれてるなら……もし、ほんの少しでも可能性があるなら……。友美が納得する後悔しない答えが出たら聞かせて。それが何年後だろうと、どんな答えでも、俺は受け入れる』




――結局、私は圭くんの優しさに甘えてしまった。

ズルいのは、私。


圭くんと家の前で別れ、自宅に入る。

靴を脱ぎながら、私ははぁ、とため息をついた。


圭くんのことを失いたくない。

兄への想いも消せない。

……答えの出せない自分が嫌い。


「ただいま……」

「おかえり~」


明るい声と、トントンという軽快な音がキッチンから聞こえてくる。

私は吸い寄せられるようにキッチンに向かった。


そこには鼻唄を歌いながら、包丁でリズミカルにきゅうりを切っている母の姿。


……昔から母は、いつも笑顔で楽しそうな表情をしている。

落ち込んでる姿とか泣いてる姿とか、ほとんど見たことないし。

本当に幸せ、なんだろうな……。


そんな母に、私はずっと憧れの気持ちを持っている。


「……ねぇ、お母さん」

「ん、なぁに?」

「……お母さんは何でお父さんと結婚しようと思ったの?」

「え?何、急に」

「……、っ!あ、いや、あの」


しまった!と思った時にはもう遅くて、誤魔化す暇もなかった。

母は大きく目を見開く。


「――友美、もしかして圭くんと――?」

「……あ、……えっと……」


母は包丁をまな板に置き、言葉を続けられなくなっていた私の方に寄ってくる。


何も考えずに口に出てしまっていた母への疑問は、完全に私が結婚を意識していると思わせるもので。

……結婚のこと、知られちゃったな……。

……でも、不思議と焦っていない自分がいる。


「……そっか。そういうことだったのね。最近悩んでると思ったら」

「……」


何で悩んでるの?、ってやっぱり思われてるのかな……?