どくん、どくん。


心臓、飛び出しそう……。


私は圭くんとの待ち合わせ場所にいた。

何だか落ち着かなくて早く来すぎてしまった。


……やっぱりプロポーズは断るべきなんじゃないかと思ってる。

圭くん以上に想ってしまう人がいる状態で結婚するなんて、圭くんに対して失礼すぎるから……。

結婚して圭くんを支えていく自信もないし……。

母と話した後も考えてたけど、圭くんと結婚した後のことを想像することができなかった。


……これが私の決めた答え。

これで、いいんだよね……?


「――あれ?友美、早いね」


聞き慣れた声にハッと顔を上げる。

そこにいたのは圭くんだった。

ドクン、と心臓が跳ねたけど、圭くんの優しい笑顔にすぐ落ち着きを取り戻す。


「圭くんこそ。早かったね?」

「あー、うん。用事が思ったより早く終わったから、さ」

「そっか」

「うん……。あ、今日行きたいとこある?行くとこ決めてなかったよな」

「え?ううん、特には……」

「じゃあさ、ちょっと遠出しよ?」

「?」

「電車でプチぶらり旅。」

「ぷ、何それ」

「たまにはいいだろ?じゃ、行こ」


圭くんの手が私の目の前に伸びてくる。

少し戸惑ったけど、私は圭くんの手の上に自分の手を乗せた。


温かくて大きい、圭くんの手。

私を優しく包み込んでくれる手。

私はこの手を離すんだ……。


自分で決めたことなのに、寂しいと思ってしまう私がいた。