「あまり笑わなくなったこいつが、最近よく笑うんです。昔のように。……それは、蒼井さん…あなたのおかげかな?」
「……いや、あたしは特に何も……。あたしは伊月くんに出逢って変わりました。お礼を言うならあたしの方です。」
「そうか……。蒼井さんみたいな子がそばにいると安心します。こいつを…智哉をこれからもよろしくお願いします。」
そう、伊月のお父さんは深々と頭を下げた。
あたしも合わせて頭を下げた。
伊月のお父さんはあたしが朝食を食べていないことを知っていたのか菓子パンやらジュースの入った袋を手渡し病室から出て行った。
伊月のお父さん、いい人。
ちゃんとわかってるじゃん、伊月のこと。
それから数時間が経った。
もう少しで一組の劇が始まる。
ふと、眠っている伊月に目を移した。
寝顔は子供のように純粋でかわいい。
口を開くとイジワルを言うようには思えない。
でも……このままずっと目を覚まさなかったら?
……そんなの、嫌だ。
その柔らかそうな唇で、バカって言ってよ。
その優しい目で、あたしを見て。
「……い、伊月……。起きてよ、目覚ましてよ。いつもみたいにバカって、アホって言ってよ……ねえ、伊月……」
…やだ、なんであたし泣いてるの?