俺の彼女が可愛すぎて辛いんですけど





『あたしの彼氏は片桐くん、あなたの彼女はあたし。これで理解した?』


『…………………………ハイ』


『返事が遅い』


『ハイッ!!!!!!!』




本当に片桐くんって変なの


と小声で言った真子の口角が少しだけ上がっていたのを俺は見逃さなかった。




『はっくしゅッ』


『わ、ごめん!寒いよね?!帰ろうか…』



みんなが帰ってしまって、勝手に切られた暖房。



教室とはいえ、雪が降ってるんだから寒いに決まってる。




『これ、使って』




カバンから出した俺のマフラーを、真子の首に巻いた。




『……マフラーくらい持ってるし…』


『え?』


『何でもない』




巻き終わると、今度は真子がカバンからマフラーを出した。




あ、マフラー持ってたんだ。



まあそりゃあこんな寒空の中、マフラーなしとかありえないよな…。




余計なお世話だったな、と考えていると、ふわっと首が暖かくなった。








『じゃあ片桐くんにはあたしの』




真っ白なマフラーを首に巻かれて…



それを巻くために俺の近くに近づいてきた真子。



やば……い。



近いんだけど…っ。




あの、ちょっと。




『よし、おっけ』


『……真子ちゃんのマフラー…俺のよりあったかい』


『じゃああたしは寒い』





そう言った真子がおかしくて、初めて2人で一緒に大声で笑った。




『…明日マフラー返しに来てよ? 片桐くんのマフラー寒い』


『りょーかいです』




2人で教室を出ようとしたとき、急に真子が立ち止まった。




『あのさ、真子ちゃんって呼ぶの、やめて欲しい。あたしも片桐くんって呼ぶのはやめるから』


『え?』








『あたしに何回も告白してくる男の子たちが真子ちゃんって呼ぶの…。 それと一緒は…嫌だ』




俺の学ランの下に着ていたパーカーのフードをキュッと掴んで、



真子は俯いてしまった。




不覚にも俺の胸はキュンと飛び跳ねた。




『じゃあ何て…』


『普通に呼び捨てとかで…いい』


『真子………?』


『…ん』




ほんの少し顔を赤らめて、真子はちょっとだけ笑った。




『俺は?』


『片……ぁ、瑠偉……』


『ははっ。よし、合格』




2人で教室を出て、初めて一緒に帰った。


真子と出会ったころからのこのドキドキに、今でも俺は苦しめられる。




…これが、俺の彼女になるまでの話。








これは俺が初めて過ごした真子とのバレンタインの話。




つまり去年。



バレンタインといえば、世の中の男がバカになるって言われてるけど。




俺は真子からもらえる保証があるからいいもーん。




『ね、真子っ。チョコくれるよね?』




A組に行って、わざと大きめの声でしゃべってみた。




『そりゃあ作るけど…それ聞くの?珍しいね』


『だって真子がくれないとかありえないでしょ〜?』




A組のドア付近でぎゅっと抱きしめようとしたら、脇腹を殴られた。



『……っ、』



この頃から真子の脇腹殴りは健在だったんだけど。




学校でぎゅーもだめなんて、この頃の真子はまだ厳しかったんだよ!




『あ、まって…14日って土曜日だよ』


『学校じゃないんだ』




真子がケータイで出したカレンダーを覗き込むと、14日は土曜日だった。








『じゃあ真子の家行ってもい?』




そう言ったら、A組の人や廊下にいた人の視線がなんとなく痛くなった気が…。




そっか、真子はちょっとした有名人なんだっけ。



ちょっとビクッとしたけど、彼氏は俺だし!




真子にちゃんと『あたしの彼氏は片桐くん、あなたの彼女はあたし。これで理解した?』




って言われたから!




『…いいけど』


『早く会いたいから朝から行っていい?』


『…まだチョコ出来てないけど』


『あ、そっかー。でも早く会いたいから待つ!!』




14日のバレンタインを朝から真子と過ごせるなんて、俺幸せだなぁ。




『あ、ねぇ…瑠偉がよければだけど、チョコ一緒に作らない?』


『ん?』




一緒に?







『世間一般的には変かもしれないけど……瑠偉と作ったら楽しそうだし。

なんていうか…美味しさ倍増するかもしれないし…、あたしそれほど料理得意じゃないから…』




………っ。




初めて見る真子の戸惑っている様子に、俺が悶えないわけもなく。




『いーよ!一緒に作ろ。で、2人で食べよ!!!』




反射的に俺は真子の頭を、ワシャワシャ掻き回していた。




『ちょっと!!!せっかくストレートにアイロンしてきたのにーっ!!』




…怒られたけど。




『じゃあ土曜日、真子の家行くね』




そんな楽しみで仕方ないバレンタインが、今年もやってきた。






***************




なんと今年も幸運なことに、バレンタインは土曜日。




なんとなく恒例化しそうな、一緒に作って食べるバレンタイン。




おかげで去年はホワイトデーまで一緒に作って食べた。




今度は俺の家で。




でも今日はバレンタインだから真子の家!!!




「真子おはよ」


「…おはよ」




玄関が開いて、まずギュッと抱きしめた。



玄関先の段差の上に真子が立っていて、ちょうど背丈がバッチリ合う。




真子は小さいから、この高さだとすごくフィットするんだよな〜。









「もー…玄関寒いんだから行くよっ」


「はーい」




会えただけで口元緩む。




幸せすぎて怖いって、こういうことなのか。




よく芸能人が新婚のときに、『幸せすぎて怖いです』って言ってるのを見て




はっ、そんなのあり得ないとか思ってたんだけど。




それがよーくわかるようになった。




「もうチョコの匂いする!」


「まだチョコ細かく切ってただけなんだけど…」




キッチンに立った真子をよく見たら、俺は気づいてしまった。




「はっ!!真子!!去年とエプロン違う!!!」


「……去年のは妹にあげた…」




去年のエプロンはベージュ地にうすいピンクドットの可愛らしいデザインだった。




「何で去年のなんか覚えてんの?」


「真子のエプロン姿がレアすぎて、写メった!!!」


「………………あ、そう…」








もう返事をする気も失せているような真子にカメラを向ける。




今年のエプロンは、白地に茶色ドット。




今年も安定の可愛さです!!!




ーーカシャッ




「また撮ったの?」


「ん。永久保存版。家帰ったらパソコンにデータ落としておく」


「怖いからやめて」




なんてったって、今年もドットって所がね、


かわいいよね!




「いいから手伝って」


「はーい」




俺も家から持ってきたエプロンを腰に巻いて真子の隣に立った。




「何作るの?」


「一応ガトーショコラ」


「もう美味そう!!」


「………」




というわけで、ガトーショコラ作り開始です!!!!












「瑠偉サボらないで!それ混ぜて。チョコ固まっちゃう。あたしメレンゲ作ってるんだから」




指さされたボウルには、卵黄と溶かし終わったチョコ。




「心外だなぁ。真子を見てたんだけど」


「見なくていい」




最近真子のツンの度合いが高すぎる!!!


と1人でツッコミを入れてから、真子に指示されたものを混ぜた。










「あとは35分焼くだけ…!」


「真子ーーーっ!!」




一段落ついたところで、俺の時間ですよ真子ちゃん。




思いっきり抱きついたら、真子の背中がドンッと壁にぶつかってしまった。




「うわ?!ごめん大丈夫?!」


「……大丈夫」




『ごめん〜っ』って抱きしめながら背中をさすった。



勢いよく飛びつきすぎたな。




力加減考えてから行動しなきゃ。




もし真子が怪我したら…!!!