イアルは町を歩いていてハッとした。

 クリスティーヌの姿を見たからだった。

 金色の髪、緑色の目。

 間違いない、彼女だ。

 イアルは彼女に声をかけようとして躊躇った。イアルは彼女を知っているが、彼女がイアルを知っているかどうか、確信がない。

 声をかけようかどうしようか。そう考えながら空を見上げると、どんよりとした分厚い雲が立ち込めていることに気付いた。

「こりゃ一雨きそうだな」

 イアルは呟いた。

 理屈などなく、庶民として生活し始めて五年の間に培ってきた本能である。

 直後、雨がザッと降り出した。

 バケツをひっくり返したかのような大雨にイアルは戸惑った。

「一雨どころじゃないぞ…」

 持っていた鞄を傘代わりにしたところで、イアルの目にずぶ濡れのクリスティーヌが映る。

 あのままでは、彼女は風邪を引くかもしれない。

「あ、あの」

 イアルは勇気を振り絞り、彼女に声をかけた。