まさかイアルの口から、あの名前が出てくるなど思いもしなかった。
「…クリスティーヌ、か」
その名前は、前国王と前王妃の娘の名前だった。
「…まさかイアルが、彼女のことをまだ好きでいたとは」
ルークがアリシアに頼んで前国王と前王妃の住処へ行ったとき、どうやってついてきたのか、イアルが一緒にいたのだった。
――お父様、あの子、とても可愛いですね。
イアルの言葉は、今でも鮮明に思い出せた。
まさか、まだ彼の記憶に残っていて、まだ好きだったなんてルークにとって予想外だった。
「彼女をイアルの嫁にすれば、カイルも庶民を嫁にしたいなどと言わなくなる筈だ」
おそらくは、カイルの言っている心に決めた女もクリスティーヌだ。
カイルが恋をしなくなったのも、彼女に魅せられてしまったからなのだから。もっとも、イアルの話だけを聞いて好きになったから本当の恋なのかはわからなかったが、本人に会って恋に落ちたのだろう。
「王妃はミィナ嬢がなるべきだ。クリスティーヌは王妃にさせない」
ルークは呟き、拳を固めた。
クリスティーヌが王妃になってしまえば、前国王たちのことも明るみに出てしまうし、何より彼女は神の証の持ち主なのだ。