「まあね…五年前に見つけた俺の唯一の楽しみが花の世話だからね」
「五年前に?」
イアルが答えると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「あ、あぁ」
「五年前かぁ…じゃあ、結構前なんですね」
結構前、か。
イアルは彼女の言葉に俯いた。
何も知らない彼女からすれば、五年という歳月は長いのかもしれない。
だが、イアルからすれば恐ろしいくらいに短い歳月だった。
なぜなら、五年前にイアルの人生が大きく変わったからだ。それこそ、五年前の生活と今の生活では天と地ほどの差がある。
イアルは五年前、王位継承者に選ばれず、王宮から迫害された。
王子が二人いた場合、代々伝わる神の剣が選んだ王子が王位継承者となり、選ばれなかった者は王宮から追い出される。
それが王宮のしきたりなのだ。
それにのっとり、イアルは王宮から迫害された。
もともと、王である父もイアルより弟のカイルばかりを可愛がっていた訳で、イアルとしては剣に選ばれなくてホッとしていたりもする。
もし選ばれたのがイアルだったなら…そう考えるだけで、生きた心地さえしなかった。