ヒミツの恋【短編集】

『高橋どうかした?…俺何かしたかな?』





そう言われて慌てて答えた。






「そんな事ないよっ!日直でもないのに手伝ってもらってごめんね?」





そうだよ。私、手伝ってもらいながらこんな態度取っちゃって…






『ならいいんだ。……危ないっ!!』






そう叫ばれた時、私はすでに何もないところで躓いて持っていたプリント全部をぶちまけてすっ転んだ後だった…






ヒラヒラと舞うプリント






『大丈夫か?今手伝うからっ!』





そう言って小林君は教室へと走って行った。





私は慌てて落ちたプリントを拾い上げる。






そんな時、手伝ってくれる人が目の端に移った。





小林君、もうプリント置いて来てくれたんだ。





そう思いながらプリントをかき集め顔を上げた。
「小林君ありがとう!ごめん…ね…」





顔をあげた先には…





中川君がプリントを持って立っていた。






『ホントよく転ぶな…』






そういって中川君は自分が集めてた分を私に渡してくれた。





「あ、ありがとう!!」





『お前見てると、いつか大怪我するんじゃないかって心配になるよ…』





ドキン!!






「だ、大丈夫だよ!さすがにそこまでは…ね?」






そんな時小林君が駆け寄って来た。





『高橋!大丈…夫?』





あぁっ!せっかく中川君と二人きりだったのにっ!!




小林君は中川君を見て驚いた顔をした。





中川君はそんな小林君を一瞥したあと、私の頭に手をポンと乗せて一言…





『気ぃつけろよ…』





そして教室へ戻って行ったんだ…
あ、あ、頭っ!!
頭ポンってされた!!





どうしようっ!!めちゃくちゃ嬉しいっ!!







『高橋と中川って仲いいの?中川が人と話すの見たの初めてかも…』





驚いた顔して言う小林君に私はアハハと曖昧に濁す。




そして教室へ戻ろうと歩き始めてまたすぐに躓いた。





ガシっ






『…セーフ…ホント高橋ってよくコケるね…見てて飽きないよ。』





私を支えながら言う小林君。






「ご、ごめん…」





離れて歩き出す私。






見てて飽きない…か…





要はおもしろがってるだけなんだよね、きっと…





そりゃ何もない所でしょっちゅうコケてればそうなるか…






けど、中川君は違う…






心配だって…






そう言ってくれた。






私の事心配してくれた…






その事が死ぬほど嬉しくて…






心配でもいいから、中川君が気にかけてくれるなら、痛くても転ぶのが嫌じゃなくなったんだ…
それから何週間か過ぎたある日の事だった。




割り当てられた階段の掃除をしていた私に、箒を持った裕美が近付いて来た。





『まどか、私見ちゃった…。それでわかっちゃった。』





ふふっと笑う裕美に何の事かわからなくて首を傾げた。





『まどか、好きな人…出来たでしょ?』






ドッキーン





心臓が跳ね上がる。







「なななな何の事!?」







持ってる箒で同じ所を何度も掃いてしまう。






『まどか…中川の事すきでしょう?今日二人が廊下で話してる所見ちゃったんだ。』






とうとう知られちゃった。





でも裕美と真由美にはいつか話そうって思ってたし、今がその時なのかもしれない。





そう思って口を開いた。





「実はね…」
でも裕美の話はまだ続いてたみたいで言葉を遮られる。





『びっくりしちゃった!いつもはホント寝てばかりで顔も無表情で何考えてるのかわからない感じだったけど、まどかと話してる時の中川、笑ったりしてるんだもの!驚いちゃった!』





ズキン…って胸が音をたてた 。






中川君の笑顔、裕美も見ちゃったんだ…





私だけの特権だったのに…





そんな嫌な考えが頭の中でどんどん膨らんでいく…






『笑った中川ってさ、なんかかわいい顔に見えたな〜。あ、私初めて知ったんだけど、笑うとえくぼ出来てたよね!!』






やだ…それも見たの?






やだ…






やだ…






中川君の笑うと出来るえくぼは私だけしか知らない事だったのに…
『一見恐そうなのに、よく見てみたら、案外いい男なのかもしれないし、まどかとお似合…』





もう…聞きたくないっ!!






「好きなんかじゃないもんっ!!あ、あんなにでかくて恐そうな人、好きになんかならないっ!!」






わかってる、裕美は何も悪くないって…




悪いのは隠してた私…





中川君を独り占めしたくて…




私だけしか中川君の笑う顔知らないって優越感に浸ってただけ。





裕美はきっと何も話さない私から、本当の事聞きたくてからかっただけなのに…




こんな事でキレて裕美に怒鳴っちゃうなんて…




中川君を勝手に自分だけのモノなんて考えたりしちゃって…






私…ホント最低だ…
固まったままの裕美を見て我にかえる。






「ご、ごめん…」





慌てて謝るけれど、裕美は私の後ろのある一点を見つめて動かない…





不思議に思ってその方向を振り返り見てみると…





「あ…」






中川君が立っていた…






今の話…聞かれてた!?







「あ、あのっ中川く…」






『恐がらせてたみたいで…悪かったな…』






やっぱり聞かれてたっ!!





「―ッ!あのねっ!私っ…」






中川君の方へ一歩近寄り、話をしようとした。





けれど…






『…もう話しかけてくんなっ』







そう言って、階段を降りて行ってしまった…
…嫌われちゃっ…た…よね…







じわっと視界が滲む。






バチがあたったんだ…





独り占めしたいなんて思ったから…





ポタっ







階段に落ちる涙…






もう…中川君に挨拶出来なくなっちゃった…





心配もきっとしてくれない…









『何やってるのっ!』






甲高い怒鳴り声が響いた。





裕美が私の箒を奪って、真っ赤な顔してグイグイと押してくる。






『早く追い掛けて…それでちゃんと謝りなっ!!じゃなきゃ…誤解されたままだよ!!』






「だって…傷つけて…」






『恥ずかしくてあんな事言っちゃったんでしょ!?私にからかわれて、つい思ってもないこと言っちゃっただけでしょ!?』







「裕美…ごめ…隠してて…」






『いいからっ!私の方こそからかってごめん!とにかく早く追い掛けてっ!!』
「追い掛けても…どうしたら…ぐすっ…」





『ちゃんと今の気持ち伝えるのよっ!』






「…うんっ!」






私は走りだした。






中川君に、謝らなくちゃ。






本当は恐いなんて思ってないって…





ちゃんと…伝えなくちゃ!!













1階の階段をあと数段で降りるところの中川君。







「―ッ!中川君!!」







私の声に反応して振り返るけど、またすぐに前を向く中川君。







「ごめんなさいっ!!」






1階と2階の間にある踊り場で叫んだ。