ヒミツの恋【短編集】

「な、何でもない!」




慌ててスカートのポケットに隠す。





ぞろぞろと教室へと戻ってくるクラスメイト。





私は逃げる様に自分の席へと座って、そっと冷え○タを取り出した。





ドキン…ドキン…






さっきまでは、あんなに恐かったのに…





もう少し話してたかったなんて…





私…






中川君の事…





もっと知りたいって思ってる。






寝ている中川君を見る。





いつも寝たフリしてたのかな?





でも…何で?






なんで保健室前にいたの?




なんで調理実習さぼったの?





なんで冷え○タ持ってたの?






なんで?がいっぱい増えていく。
…単純なのかもしれないけど…





中川君の事…





好き…になっちゃった?






なんで?





私の想像とは違って、本当は優しい人なのかもしれない…
見た目は恐そうなのに、実は優しかった、ってギャップに、きっとやられちゃったんだ…






………うわぁ!私って単純すぎる?





ちょっと優しくされて惚れちゃうなんて…






赤くなる頬を両手で抑えて、足をバタバタさせる。
不意に、肩をトントンと叩かれる。





我にかえると目の前には同じクラスの小林君。






『あのさ、そこ俺の席…』




「へ?…あっ!!ご…ごめん!!」




私の席はその1つ前。自分の鞄が目に入り慌てて席を立ち上がる。




ガンっ!!





「痛い!!」





またぶつけちゃった…





そんな私を見て、笑う小林君。




『高橋ってよくあちこちぶつけるよな。見てて飽きないよ。』





「えへへ…」





チラリと中川君を見てみると、中川君はほお杖をついてこっちを見てた。






ど じ






口パクでそういった。






うわぁ…中川君が!





あのいつも突っ伏して寝てる中川君が!!





私を見て、話しかけてくれた!!





私はもう、それだけで嬉しくて、やっぱり中川君に恋しちゃったんだって思った。
それからは毎日学校へ来る楽しみが増えた。





学校へ着いたらいつもは授業が始まるまで裕美や真由美とだらだら話してるだけだったのに、今は違う。





裕美達には、何かと言い訳をして廊下で中川君を待ち伏せ、そして見かけたら話し掛ける!




最初は面食らった顔してた中川君も、今じゃ普通に返事を返してくれる。





その事が嬉しくて更に浮かれる私は、今まで以上にこけたり、ぶつけたり…





『最近のまどか、いつにも増して傷が多くない?』




裕美に指摘されてドキっとする。





『それなのに、なんか楽しそうだしね。』




真由美にも指摘されて、更にドキっとしてしまう…





「そ、そうかな?いつもと変わりないよ?」





あははと笑ってごまかす私に詰め寄るふたり。





『『何があったの?話してよ。』』
二人は親友って思ってるし、話してもいいかな?って思ってるよ。





けど…





「な、何もないってば。」




つい隠してしまう私…





なんかね…中川君との事は勿体なくて話せないの。





普段は誰とも話さない中川君が、私が声をかけると返事をしてくれたりとか…
私が廊下でこけそうになったのを助けてくれたりとか…





話しちゃうと、全部無くなっちゃうような気がして…





もう少し…





もう少しだけ秘密にしてたいんだ。






もっと、中川君と仲良くなれたらその時は、ちゃんと私の気持ち二人には話すから…




だからその時まではもう少しだけ…




秘密にさせてて…
相変わらず不審そうに見て来る二人に心のなかで“ごめんね”と謝る。





そんな私に小林君が声をかけてきた。





『高橋!今日、日直だったよな!担任がプリント取りに来いって言ってたよ。』




「わかった!ありがとう!!」





えっと…もう一人の日直は…





いない…






仕方ない…ひとりで取ってくるかな…





『手伝おうか?』





小林君がもう一人の日直がいないことに気付き、そう言ってくれた。





「いいよ一人で平気…」






そう答えたのに、裕美と真由美は、ニヤニヤしながら私をつつく。





『手伝ってもらいなさいよ!重かったら大変よ?』




『人の厚意は受け取るべきよ?小林君、まどかが転ばないように見ててあげてくれる?』





勝手に話を進めて行く二人…
『あはは…わかったよ。任せて。じゃあ行こうか。』




「う、うん…」





ヒラヒラと手を振る二人を恨めし気に見ながら立ち上がる。





チラッと中川君を見ると…





珍しく起きてて、いつかの時みたくほお杖をついてこっちを見てた。





けど、それも一瞬ですぐに目を逸らされ、中川君はまた突っ伏してしまった。





ズキン…





なんか…シカトされたみたいで嫌だな…





裕美と真由美の態度で、私が小林君を好きだって勘違いされたりしてないかな…





誰に勘違いされても構わないけど、中川君だけにはそう思われたくないのに…






担任が渡して来たプリントは意外に量が多くて小林君が半分持ってくれた。





『やっぱり一緒に来て良かったな。一人じゃ重かっただろうし。』




「そうだね…」





小林君は善意で手伝ってくれてるのに、私の頭の中はさっきの中川君の態度でいっぱい。
『高橋どうかした?…俺何かしたかな?』





そう言われて慌てて答えた。






「そんな事ないよっ!日直でもないのに手伝ってもらってごめんね?」





そうだよ。私、手伝ってもらいながらこんな態度取っちゃって…






『ならいいんだ。……危ないっ!!』






そう叫ばれた時、私はすでに何もないところで躓いて持っていたプリント全部をぶちまけてすっ転んだ後だった…






ヒラヒラと舞うプリント






『大丈夫か?今手伝うからっ!』





そう言って小林君は教室へと走って行った。





私は慌てて落ちたプリントを拾い上げる。






そんな時、手伝ってくれる人が目の端に移った。





小林君、もうプリント置いて来てくれたんだ。





そう思いながらプリントをかき集め顔を上げた。
「小林君ありがとう!ごめん…ね…」





顔をあげた先には…





中川君がプリントを持って立っていた。






『ホントよく転ぶな…』






そういって中川君は自分が集めてた分を私に渡してくれた。





「あ、ありがとう!!」





『お前見てると、いつか大怪我するんじゃないかって心配になるよ…』





ドキン!!






「だ、大丈夫だよ!さすがにそこまでは…ね?」






そんな時小林君が駆け寄って来た。





『高橋!大丈…夫?』





あぁっ!せっかく中川君と二人きりだったのにっ!!




小林君は中川君を見て驚いた顔をした。





中川君はそんな小林君を一瞥したあと、私の頭に手をポンと乗せて一言…





『気ぃつけろよ…』





そして教室へ戻って行ったんだ…