ヒミツの恋【短編集】

…結局予約が一杯のお店だから、時間もずらせないってお母さんが申し訳なさそうに言って来た。





「わかった。…ありがとうね…。」






そして私は和弘に電話をかける。






コール音が鳴らないうちに電話に出た和弘に、考えていた台詞がパッと消えてしまう。







『びっくりした!今裕美ちゃんにメール打ってたとこだったんだ。日曜の時間なんだけど、3時でいい?』





指定された時間が思ってたより遅い時間で、6時半までに帰らなくちゃいけないって言いだしずらくなっちゃう。






「…もう少し早く出来ない…?」







『昼からちょっと外せない用事が出来たんだ…。俺の都合じゃずらせなくって…』







そんな…じゃあ…たった3時間位しか一緒にいられないの?






『…まずかった?』








「実はね…」







私は恐る恐るお父さんがレストラン予約してた事を伝えた。
話し終えても和弘は無言で何も言わなかった。






電話で表情が見えない分、どんな顔してるのかわからなくて、どんどん不安になる。





「もし…もし?…怒…っちゃった?」






極度の緊張で喉が引っ付きそうなくらいカラカラして、上手く話せないよ。





『そっか…。そういえば大分前に部長なにか一生懸命見て電話してたよ!…その後すごく喜んでたな。きっと予約がとれて嬉しかったんだろうな!』






和弘の声はガッカリしたものでも何でもなくて、いつもと同じ…ううん寧ろ嬉しそう?






『いいお父さんだよな!…せっかく部長が頑張ったんだし、楽しんで行っておいで。…そうなると、あまり時間もないし、会うのよそうか?』







「え…?」








和弘は…私と会えなくて残念じゃないの?






会えない事を喜んでるように聞こえるよ?
『だって、ドライブするにも時間ないし、夜食べに行くなら、下手に食べたりも出来ないし…。映画とか見ても…』






「…和弘は…私と会いたくなかったの…?ただ…一緒に過ごすだけっていう選択肢も…無かったの?」






『そうじゃないよ。ただ日曜日は…』








「もういい…わかった…」






『え?裕美ちゃ…』







和弘が話してる最中だったけど、私は最後まで聞かずに電話を切った。





そしてそのまま電源を切った。







和弘にとって誕生日に会えない事なんてどうでもいい事だったのかもしれない。





楽しみにしてたのは私だけだったなんて、はっきりわかっちゃうのが耐えられなかったんだ…
土曜日になっても携帯の電源は切ったままだった。






もし、電源をいれてメールも入っていないってわかったら余計悲しくなっちゃうと思ったから。






ホントなら土曜日学校は休みなんだけど、学年全員強制で受けなくちゃいけない全国模試があって私はいつも通り制服に着替えて部屋を出た。






リビングには仕事は休みなのに朝からお父さんが起きて新聞を読んでいる。





私を見てまた新聞に目を戻し、尋ねられる





『学校は休みじゃないのか?』




「…模試があるから…。」





あれからお父さんとはほとんど口を聞いていなかった。





お父さんも私も気まずくて、でもお互いどうしても自分から歩み寄れずにいる感じだった。






お母さんからお弁当を受け取り、家を出ようとした時にお父さんがまた声をかけてくる。






『…どうしても行きたくないなら、キャンセルする。』
一瞬、和弘の顔が浮かんだ。






「行くよ…。すごく頑張って予約してくれたんでしょ?」






もう和弘とは会えなくなったんだし…






「…行ってきます。」






お父さんの顔を見れずに家を出る。






学校へ行って、模試を受ける。





問題は全然解けないし、…和弘の気持ちは見えないし…ホント最悪…。





全教科模試が終わって、喜ぶクラスメイトをぼんやりと眺めていた…





『…美。…裕美!』






「え?あぁごめんボーッとしてた…。」






いつの間にか目の前には、真由美とまどかの姿があって、帰ろうとしない私を覗き込んでいた。
『裕美らしくないね。…何かあった?』






そう尋ねる真由美を呼ぶ声が聞こえた。






その方向をみると、そこには渉先輩の姿がある。





『ちょっと待ってて。』






微笑みながら話し掛ける真由美の顔がとても羨ましく映る。






『コレ、私と真由美からの誕生日プレゼント!』






まどかに包装されたプレゼントを渡される。






『一日早いけど、明日は会えないしね!』






「ありがとう。開けてもいい?」






そう尋ねる私の頭上から降ってくる声。






『…まどか…帰るぞ。』







中川が真後ろの席からまどかに声をかける。







『待って!裕美開けて見て!』







「家に帰ってから開けてみる!二人ともありがとう!あまり待たせちゃ悪いし、ほら早く帰って!?」






…私…ホント嫌なヤツ…






二人の幸せそうな姿を見ていられないんだ。






私の為にプレゼントまで用意してくれたっていうのに…






二人に見せ付けられてるように思っちゃってるの…
半ば追いやる様に、二人を帰して、もらったプレゼントをひとりで開けて見てみる。






中から出て来たのは、イミテーションだろうけど、繊細な細工のされたガラス玉の付いたネックレスだった…






メッセージカードも付いてて開けてみる。






“明日のデートに付けていってね! まどか”



“首元のお洒落も大事よ。ストール巻いて隠さないようにね 真由美”





「…ひっく…ごめんね…。」





卑屈な考えばかりしてたのに…




二人は私の事を想ってくれてるのに…





二人の幸せを喜べない私が、…他人を思いやれない私が…幸せになんてなれっこない。






…こんな綺麗なネックレス…私はつけられないよ。
とても持って帰る気分にもなれなくて、二人には申し訳ないけど、学校に忘れていった事にしちゃおう。




月曜日には、ちゃんと二人に謝って、お礼を言わなくちゃ…





明日は付けられないけど…二人からのプレゼントだもの。他の時にちゃんと付けるから…だから…許して。



綺麗に包装し直して、机の中にしまって教室を出た。



校門を出ようとした時、私を呼ぶ大きな声がして振り返る。





「小林君?…どうしたのそんなに慌てて…」




小林君の持っているものに言ってる途中で気付いた…




『小田切もドジだなあ。ほらコレ!』






渡されたのはまどかと真由美からもらった…机の中にしまって置いたプレゼント…
『高橋達がくれたモノだろう?忘れてくなよな!』





「…うん。わざわざありがとうね。」




それを受け取り、帰ろうとするとまた呼び止められる。






そして渡された紙切れ2枚…





「何コレ…。…引換券?」




『そっ。俺のバイトしてるカフェのケーキセットのね!俺からの誕生日プレゼント!』





「へぇ、バイトなんてしてたんだ…。」




『ソレ明日までしか使えないから、ちゃんと食いに来いよ!じゃあ俺これからバイトだから!明日待ってるぞ!』






「は!?ちょっと!!」





大声で言いたい事言って、行っちゃった…
明日までしか使えなくて…誰と行けっていうのよ。






ため息をついてその引換券を鞄にしまい込み、家の方向へと顔をあげた。