弱小バスケ部の奇跡







なんかしっくりこなかったワケ、それだよ絶対!!


目線高いなーって思ってた。




「上半身も、ちょっと屈めてみてよ」


「…こう?」



ちょっと屈めて、ドリブル。




んん?

なんか、よさそう?




「そーそーっ、いーじゃんいーじゃん♪」



美凪はあたしの背中をバシバシ叩く。



「いったい…」


「ごめんごめんごめんごめんごめん」




…何回言うねん。




「あとは、見ないでできるように練習だね」


「うーい」



そう言うと、美凪は和香のほうに行き、途端に叫んだ。





「なんじゃそのドリブルはぁーーっ!? ナメとんのかこるあっ」




………なぜに関西弁。








向こうから、和香の喚き声が聞こえてくる。



「だって! Cはドリブルしないでしょ」


「ばかたれッ!」



美凪はビシッと、なぜかあたしを指差した。




「それ、SGの棗とかPGの未希に、リバウンドはしなくていいって言ってるのと同じだよ!?」




……えぇ。


あたしもリバウンド参加すんの?

この身長で、背高い方々とリバウンド争いすんの?




それ、あたし絶対とれない気ぃするよ。





「Cだって、場合によってはドリブル必要になる時あるんだから! やっとかなきゃ」



最後は和香をビシッと指差し、キメ。




和香固まってるー。











「…むぅ、わかったよ」


「よし」




和香承諾。

めでたしめでたし。






……って、あたしこんな実況やってる場合じゃないって!





あたし、ドリブル練習再開。



ダムダムダム……と、左右両方。




鬼ヘタレキャプテン美凪、左右100回ずつと指示。






あたしは、自分のドリブル音がいつまでも耳に残ってて仕方なかった。






──────ダムダムダムダムダム………








…うああああああああッッ



離れろ離れろこんのーーーっ!!!










さて、今日も練習ですよ。




なんか最近、バスケって楽しいなーって、思うようになった。


バスケの楽しさに気づき始めたのかな。





今までは、ただ、だらーんと、ボール遊び程度だったのに。




ドリブルできるようになってきたら、途端に楽しくなってきたっていうか。



上手くなりたい、って気持ちが、あたしの中で芽生えたっていうか。







あたし、バスケにハマり出してる。



バスケが、好きになってる。





毎日の放課後が、待ち遠しくて仕方ない。










「今日から、ドリブルの技練習するよ!」




…おぉっ、ついに。


待ってました!





「今日練習すんのは、レッグスルーって技。簡単に言えば、股通しだね」




レッグスルー。


技名かっこよいですね。





「こう、腰を落として、膝曲げて、低い位置でチェンジするの」



美凪が手本で、その〝レッグスルー〟を見せてくれる。




うずうずしてきた。


早くやりたいよ。






ボールを持ち、まずは数回ドリブルをついてみる。




体が、覚えてる。

ボールの感触を。




前よりも確実に、ボール扱えるようになってる。


ボールが、ちゃんと手の中に帰ってくる。





前よりも、心通わせてるのかな、あたし達。










それから、見た通りに真似てみる。






しかし───




「あだっ」


ボールはなかなか通ってくれず、何回も足に当たって、左手に収まらない。






……ボールのつきだしが悪いのかも。




今度は、ギリギリのところでボールをバウンドさせる。





───ダムッ




「やった」



見事に、ボールは左手に収まった。


あたし、小さくガッツポーズ。






なんか上達早くて、何回か繰り返したら、連続でできるようにまでなった。










「おっ、上手いじゃん、棗」




振り返ると、連続レッグスルーでやってくる、ドリブルの神・未希の姿。



はあああああ…



上手い、上手すぎます神様。





「レッグスルー得意でしょ。見ててすっごい上手いもん」


「ほんと?! やった!」



あたし、今度はがっつりガッツポーズ。


神様に褒められちゃあ、こーしなきゃ。





「その、連続レッグスルーってどうやんの?」



あたしは目を輝かせて尋ねる。




「…あ? あぁ、これね。練習しまくったんだ。繰り返せば、棗だってできるよ」



未希は巧みなボール裁きでゴールまで走り、そのままレイアップを決めた。






……あたしも、中体連までには、未希みたいに…………




自然と拳に力が入った。









──午後6時30分。



「よーっし、今日はここまでにしようか」


美凪がドリブルをやめて言った。



「うーい、お疲れっす」


あたしも一度手を休める。



「ふーっ、あっつーい」


和香はTシャツをぱたぱた。



「疲れたねー」


蒼乃は顔を真っ赤にして汗を拭った。



「うわっ、今気づいたけど、外薄暗っ」


未希は眉を顰める。




確かに。


でも、ちょっとずつ夏が近づいてるから、暗くなる時間遅くなったな…。







〝夏が近づいてる〟───



それは、確実に、あたし達の〝最後〟が近づいてるってこと。




〝中体連〟って、あたし達の、最初で最後の大舞台。





7月のあたし達は、どんなチームになってるかな。












「「「「「えぇぇぇぇぇぇーーーッ!!!???」」」」」


「ちょっと、声大きいですよ」



翌日、朝のHR。


あたし達は、担任からショッキングなことを聞かされた。



「なっ、どうしてですか!」


「なんでいきなり!」


「そんな、無理です!」


「バスケしたいです!」


「工事って、なにすんですか!?」


「あぁいっぺんに言わないでちょうだい! 私、聖徳太子じゃないんだから!」





うそうそうそうそ………っ


なんで、こんな大事な時期に……………







体育館工事で、体育館使えないなんて…………!!!