ていうかその〝スリーポインター〟って、このめちゃくちゃ遠い線から打つんでしょ?
それをあたしにやれと?
…うわぁ、さっきまでのやる気はどこ行っちゃったんだろうか。
「まぁ、練習あるのみ! 棗ならできるって!!」
………あらそう。
なんでかわかんないけど、人にそう言われるとできる気するんだよね。
よっし、やってやろーじゃないの!
「…んで、3番のSF(スモールフォアード)がウチ」
SFがどんな役割なのかは知らんが、キャプテン美凪頑張れ。
「で、4番、PF(パワーフォアード)が蒼乃ね」
「っえぇ、私!?」
蒼乃、素っ頓狂な声出しすぎ。
目をぱちくりしながら、美凪をじぃーっと見ている。
「主にリバウンド頑張るの」
「…リバウン、ド………」
……リバウンド…………
なんだそれ。
「シュート外したボールをとること! 蒼乃はジャンプ力あるからぴったしでしょ」
おぉ、確かに。
蒼乃ジャンプ力すごいもんね。
常に、地に足ついてないっていうか、ぴょんぴょんしてるもんね。
「もちろん、オフェンスもしっかりやらなきゃね」
「…はーい」
え、なんでそんなにテンション低いの。
頑張れリバウンド。
「…じゃー最後、5番のC(センター)は和香」
「やっと呼ばれたーッ!」
えっ。
気にすんのそっち?
「Cは、蒼乃同様リバウンドしなきゃだけど、ゴール下のプレーをたくさん練習しなきゃなんないよ」
「ゴール下?」
「そ。和香は身長高いし、パワーさえつければすごくいいCになると思う!」
和香、途端に顔が光り輝く。
「よぉーっし、和香頑張るッッ!!」
「うん! そのイキだっ」
………あれ?
あのさ、あたし、気づいちゃまずいことに気づいちゃったかも。
和香って、蒼乃よりジャンプ力なくない?
……うん、まぁ、頑張れ、和香。
「よっし、じゃ、まとめるよ」
美凪が指を折りながら確認していく。
「PG未希、SG棗、SFウチ、PF蒼乃、C和香。そして、マネージャーが美羽ちゃん」
おぉ、なんかかっけー。
「よーっし! このメンバーで中体連頑張ろう!!!」
「「「「オォーーーッッ!!!!」」」」
よっし、じゃあ早速練習し……
「…あ、あのー…」
遠慮がちに小さくなって言ったのは、マネージャー美羽ちゃん。
ん? どしたの?
「…あの………ほんとに、言いづらいんですけど……中体連、参加するには、参加費が、必要……だと思ったんですけど………」
………………。
……………ぬおぉぉぉぉぉぉおおおっ!?
そうだよそうだよ!
タダで出れるわけじゃないよね……うん。
じゃあ一体どーするん……
「それは心配無用だよ」
え?
すると、体育館の錆びたドアがゆっくりと開いていった。
バスケ部一同、開いたドアに視線を移した。
「……え………っ」
思わず目を見開く。
開いたドアの向こうにいたのは、紛れもなく、あたし達M中の先生達。
担任と、それぞれの教科担任、さらには校長と教頭までもが、そこに立っていた。
───どういうことだ…?
あたし達は声を失って、ただ先生達を見ていた。
「…中体連、といったね」
口を開いたのは校長。
「……は、い」
美凪も、予想していなかったこの光景に驚いているようだ。
「参加費、私達に任せなさい」
「「「「「っえ…?!」」」」」
再び、予想しなかったことに、あたし達は声を揃えた。
私達に任せなさい、って………
「……君達にとって、中体連とは、最初で最後の大会。君達の集大成。それを素晴らしいものにするために、私達も是非協力したい。大事な、我がM中の最後の生徒だから」
校長はすごく穏やかに笑った。
「参加費は、私達に任せてください。そして君達は、中体連に向けて努力してください」
校長が、キャプテン美凪に手を差し出す。
美凪はその手を、考えたようにしばらく見つめたままだったが、やがてゆっくりとその手を握った。
「…はい、ありがとう、ございます…!」
美凪に続いて、美羽ちゃんを含めたあたし達も頭を下げる。
初めて、校長がいい人だと思った。
「ハンドリングーっ!」
「「「「はいッ!!!!」」」」
5月下旬。
あたし達、M中バスケ部の〝練習〟が始まった。
まずは基礎、ハンドリング。
何事も、基礎は大事。
ボールに、特に嫌われてるあたしは、1番頑張んなきゃないのね。
……まだまだ懐いてはくれません。
「……ぅあっ」
早速、誰よりも早くボールを落とす。
ボールはコロコロと転がっていく。
待てやこんにゃろう。
「…ドンマイ棗! 慣れだよ慣れ。焦りは禁物!」
「うーい、ありがとす」
ボールを確保し定位置に戻ったあたしに、美凪がにこりと笑ってそう言う。
そう、初めっから上手くなんて行きっこない。
慣れだよ、慣れ。
焦りは禁物。
頑張るんだ、高柳 棗!
お前ならできるさ!
まだ懐いてはくれそうにないけど、前よりかはマシな気がする。
「じゃあ次! 対面パス!」
「「「「はいッ!!!!」」」」
因みにですが、この練習メニューは、美凪、未希、そして経験者である美羽ちゃんの3人で組んだんだそう。
よくまぁ、そんなね。
あたしゃ無理だね。
やったらどうなるかわかんないよ。
「で、ペア組むんだけど…5人で1人余るから……」
「私、やりましょうか?」
小さく手を上げた美羽ちゃん。
「やったーっ! 美羽ちゃん一緒にやろ♪」
「…あ、はい!」
いつにも増してテンションアゲアゲMAXな和香。
若干引きぎみの美羽ちゃんの手を握り、腕をぶんぶんと上下させる。
美羽ちゃん……笑ってるけど痛そうね。
そのバカに、痛いって蹴り飛ばしてもよろしくってよ?
あたしは蒼乃と。
美凪と未希。
そして和香と美羽ちゃん。
さ、ペア決まったところで。
「よし! チェストパス!」
「「「「「はいッ!!!!!」」」」」
蒼乃の、綺麗な回転のかかったボールが、真っ直ぐにあたしに向かって放たれた。
〝パシッ〟
意外にも速いパス。
そのボールは、しっかりとあたしの両手に収まった。
「…蒼乃、パス速いね」
あたしが笑って蒼乃に言うと、照れたように笑った。
よっし、あたしも。
ボールを両手で包み、親指に力を入れて押し出す。
あたしの放ったパスも、綺麗な回転がかかり、すっぽりと蒼乃の両手に収まった。
「棗ちゃんこそ、速いよ」
いやぁ、照れるぜ。
ありがと。
体育館中に、パスでボールが擦れる音と、呼吸の音だけが響く。
私語なんかしない。
皆、目の前の課題に、必死になってやってる。
「次ーっ、バウンドパス!」
「「「「「はいッ!!!!!」」」」」
その日は、お日様沈んでもずっと練習してた。
まぁ、いうまでもないけど、暗いよ。
「しゅうごーう!」
「「「「はいッ」」」」
今日も練習。
まだまだド素人なあたし達だから、人一倍練習しなきゃいけない。
強くなるには、練習あるのみ。
「今日からドリブル練習始めるよー!」
げっ。
ドリブル……。
毎日のハンドリングで前よりはサマになってきたけど、でもだからってすぐにドリブルできるもんじゃないでしょ。
まだ完全にボールと心通わせてるワケじゃないしさ………。
「ハンドリングで、だいぶボール扱えるようになってるはず! 特に、未希と棗はできてもらわないと困るかんね!!」
…未希とあたしを比べてみなされ。
未希はすごいよ。
ドリブルセンス抜群で。
速いし、上手いし、正確。
それに比べて、あたしは…………