弱小バスケ部の奇跡





美凪は、まるで自分が説明したかのように誇らしげにニンマリと笑い、腕組みをした。



「そーこーで! 今までウチらの先輩方が参加してなかったから、M中も廃校になるし、ウチらで中体連に出ようと思ったんだけど、どう!?」








…………シーン。



美凪の、やけに大きめな声がボロ体育館に響く。




あたしは、美凪をじっと見つめるしかできなかった。





……………あたし達が、中体連に、出るの……?!






「なにそれなにそれっ! 超面白そーっ! ね、出たい出たい!! 皆出たいよね?!」



和香がはしゃぎながら腕をぶんぶん振る。






……そりゃ、出てみたいなーとかはほんの一瞬だけ頭にかすったけど、





でも、経験者ゼロの集まりが中体連に出て、どうすんの───




勝てっこないじゃんか…………!











そう思ったのは、未希も同じだったみたいで。




「なに言ってんの? ド素人の集まりがのこのこと出るような大会じゃないでしょそれ。練習試合にだって勝てもしないのに」




未希の厳しく鋭い視線が美凪を捉える。



今まで笑っていた美凪も笑うのをやめ、真剣な顔で未希を見た。




「…弱小でもさ、出る価値はあるでしょ。なにも、弱いチームは出るなとか、そんなルールはないんだから」


「………」





その空気感に、うるさかった和香も黙った。





……そんなルールが正式にあるだなんて、思ってないよ。



あたし達みたいな、ド素人の集まりの弱小チームだって、出ようと思えば出れるのはわかる。





でも……………








「「出るなら、勝ちたい」」




っ!



未希とかぶった。









未希と目が合う。




「あたし、勝ちたいよ。やるなら勝ちたい」


「うん、ウチも。そろそろ、半端な気持ちでバスケやるのやになってきた」






「…和香も。ちゃんと練習して強くなりたい」


「私も、勝ちたいよ」






美凪は「じゃあ決まりだね」って笑った。



「中体連は7月! それまでに死に物狂いで練習だッッ!!」


「「「「オォーーーッッッ!!!」」」」





あたし、美凪、未希、蒼乃、和香、美羽ちゃん、計6名。



握った拳を高く突き上げて叫んだ。







──中体連。



あたし達は、強くなる。





勝ちにいくよ。












叫んだら、なんかエコーかかったみたいに響いて、皆してふはって笑った。




このメンバーで中体連まで頑張るんだ。






「…じゃー、未希」


「ん? なに」



美凪がちょいちょいと未希に手招き。



「ちょっと来て」


「はあ?! なんでウチだけ?! 意味不明! 別にウチじゃなくたっていーじゃんよ!!」



ぎゃんぎゃん文句を言いまくる未希を連れた美凪は体育館から出ていった。





それを見たあたし達は、今度は大声で笑った。




なにしに行ったんだろー?



…ま、どーだっていいか。





「ねーねー美羽ちゃん!」


「あ…はい」




ぅおっと?!


和香、ナンパ行為。


うーわサイテーサイテーサイテー。



気安く肩に腕回しちゃって。




「いやぁぁあっ、やめてよ和香ちゃん!」



ぬおぉぉっ?!



蒼乃、まさかまさかの参戦!?


蒼乃は、美羽ちゃんの腕をぐいっと引く。





え、えー……


なんか美羽ちゃん両サイドから引っ張られてるよ……。


モテるね、美羽ちゃん。







………って、いやいやいやいやっ!!
違う違う違う!!!


つーか、なにこの風景?!



えっ、なになになになに!?!?




これ、あたしも参戦すべき?





…ぅおいっ、ばっかじゃないの!?



早く行けッッッ!!!!


美羽ちゃんを助けるのだ高柳 棗ッッッ!










「はいはいはいストォーーーップ!! やめなされキミタチっ」


「「「…………?」」」






………え?

なにこの空気。



蒼乃と和香はまだしも、なぜ美羽ちゃんまで黙る?!





えーあたし、ナメられてるのこれ?


初・後輩にナメられちゃったのあたし?









「………っぷ! きゃははははははっ!」



和香、お得意の高笑い炸裂。



え、えー…

そんなに笑える要素なくない?


ただあたしは止めただけなんすけど…





「……ふ、あははははは」


なにそのビミョーな笑いは。
蒼乃さん。


心から笑ってないでしょキミ。





……ん、美羽ちゃんは苦笑いね。

はいわかったよオッケー。






つーかほんとなんなんだこれ。


今更ながら恥ずかしくなってきたわ。








「棗ちゃん、言ったあとのカオ、超面白かったっ…ふははっ」


「……は?」



和香が口を抑えて笑う。


なにあたし、そんなヒドいカオしてたワケっすか?


どんな顔よ。




………こーゆう?

みょーんって。




……んー、いやそれともこっち?


ふがぁーって。




「ちょっとなにそれっ、棗ちゃん!! やばいやばいって! やめてーーっ」


「んにゃ? ひょっほ、はなひてよ!!」



やめろと言ってる割には蒼乃さん、アナタばっちし頬つまんでますよね。



いーだーいーっ

離せこんにゃろう。






……ほーら、やめてってば!


美羽ちゃんめっちゃ困ってるし!!






「…ふがぁぁぁーーーーッやめろバカっ」


「きゃはははははははッッッ!!!!」




そんで和香もすぐに高笑いすんなーーっ










まもなく、美凪と未希が帰ってきた。




「ね、なに話してたの?」


あたしの隣に来た未希にそう聞くと「今わかるから」と返された。




はーい。




「じゃ、未希と決めた、ポジションを発表します!」


「「「…ぽ、ポジション?」」」




なんじゃそりゃ。



「試合とかでのそれぞれの役割みたいなもんよ。しっかり練習して、頑張ってよ!」



…ほほーう。

なるほどね。


やってやろーじゃないの。




「じゃ1番、PG(ポイントガード)、未希」


「はい」


「未希にPGは最適! ドリブルセンス抜群、得点力あるし、なんてったってウチより仕切れるし!」



キャプテン美凪、途端に大爆笑。





…つーかアナタ、キャプテンはあなたなんだから、あなたが仕切らなきゃでしょうが。


なーにが、未希の方が仕切れるし、だ。

こるぁ。





「…じゃあ次、2番、SG(シューティングガード)、棗」


「…ぅぇえ?!」



あたし、急に呼ばれてびっくり仰天。


酔ったオッサンみたいな声出しちゃったよどーする。





っていうか、ななななになに?!


シューティングガードっつーのは?!?!




あたしゃ、シューティングガードのしの字も知らないわよ。









開いた口が塞がらないあたしに、美凪が説明してくれる。



「いわゆる点取り屋、だね。棗は、体育の授業ん時の短距離走はかなり速いし、スピードあると思う。あとは、未希と同様ドリブルも上手くなってもらわなきゃ」



…あたしの苦手中の苦手、ドリブルやんなきゃなんないの?



アナタ、キャプテン。

さらっと、未希と同様、とか言ったけど、あたしのドリブル見たことございます?




素晴らしいよ。



超ウルトラスーパーど下手くそで。

そりゃあもう、悲惨悲惨。





「…あー、あとね」



うげっ、まだあんの?


もーいい!!





「棗には〝スリーポインター〟になってもらうから!」


「…はああああ?!」





さっきまで「やってやろーじゃないの」とか言ってた高柳 棗は一体どこへ。









ていうかその〝スリーポインター〟って、このめちゃくちゃ遠い線から打つんでしょ?





それをあたしにやれと?



…うわぁ、さっきまでのやる気はどこ行っちゃったんだろうか。




「まぁ、練習あるのみ! 棗ならできるって!!」



………あらそう。



なんでかわかんないけど、人にそう言われるとできる気するんだよね。




よっし、やってやろーじゃないの!






「…んで、3番のSF(スモールフォアード)がウチ」



SFがどんな役割なのかは知らんが、キャプテン美凪頑張れ。




「で、4番、PF(パワーフォアード)が蒼乃ね」


「っえぇ、私!?」



蒼乃、素っ頓狂な声出しすぎ。



目をぱちくりしながら、美凪をじぃーっと見ている。