弱小バスケ部の奇跡





「なっ、棗ちゃん大丈夫?!」


蒼乃が猛ダッシュで駆け寄ってくる。




…蒼乃優しいよ。







……ねーえ、和香サン?





「ん、大丈夫っす。ありがと」


蒼乃の手を借りて立ち上がる。





すると、




「いやっふーッ!! こんちくわーーっ」


「「「「………。」」」」





皆一瞬動きを止めてその人を見たけど、すぐになにもなかったかのように練習(?)を再開した。




あたしも、見なかったことにする。






「…うええっ?! ガン無視ぃ?!」



…ヘタレキャプテン、美凪。


美羽ちゃんを連れてのご登場です。





「こんにちは先輩!」



美羽ちゃんかわいーい。


わざわざありがとね。







……ん?


…え、ちょっ、











あああ蒼乃?!


なぜ泣く?! えっ?

なにがあった??!




「蒼乃先輩っ、どうしたんですか、大丈夫ですか?!」


びっくりした美羽ちゃんが蒼乃に駆け寄る。




「…蒼乃…〝先輩〟…………」


蒼乃が小さく言った。




……先、輩…?






………っああ!

そうだった、思い出したよ蒼乃!


始業式の日に、先輩って言われたいとかなんとか言ってたね。




となると、泣いてる理由は…





嬉し泣き、感動?




くっそ、こんにゃろう可愛い


なんだよそれーっ



めっちゃ純粋、ピュアガールね蒼乃。









「やーだ蒼乃ちゃん泣いちゃってー♪ なになにどしたのぉ?」


「こらバカっ! こんのKYッッ」


「きゃーっ、棗ちゃんにいじめられたぁぁぁあっっ」


「言ってろ」



いちいちめんどいぞコイツ。




ったく、せっかく蒼乃が夢(?)叶って感動してる時に………






「はーいはい! ちょっと皆来てーっ! 集合ッ」



美凪がパンパンっと手を叩き、美羽ちゃん含めて全員集合。





「…じーつーはー♪ ビッグニュースなのだよ皆の者っ。聞きた…
「もったいぶんないでさっさと言って?」


「……あーい」



おぉっ、未希ナイス!

うわぁ超尊敬。




てかキャプテンと副キャプテンの立場逆転してるよねこれ。





まぁいいや。




………で、なに、美凪。


そのビッグニュースとやらは。












「廃校直前の時期に、『チュウタイレン』って大会があるんだって!」


「「「「…〝チュウタイレン〟?」」」」




美凪と美羽ちゃんを除いた他4人が、怪訝そうに眉を顰めて首を傾げる。




なんじゃそりゃ。


チュウタイレン、だ?



初めて聞いたよそんなの。






…あ、バスケの知識ない奴だから当然か。




……いやでも知識豊富な未希でさえ「?」ってカオしてるし………





なんなんだ、それ。



〝チュウタイレン〟って……










「美凪ちゃん、なぁにそれ?」


和香が代わりに聞いてくれる。




「んーとね、確か、日本なんとかかんとかって……
「美羽ちゃんはわかる?」




!!


蒼乃サン……。



強くなったねアナタ。




美羽ちゃんは美凪に多少遠慮しながらも、説明してくれた。



「はい。…『チュウタイレン』とは、中学の〝中〟に体育の〝体〟に連なるの〝連〟と書いて『中体連』と読みます。これは、日本中学校体育連盟っていうところが主催してる大会で、毎年夏に行なわれている中学生の大きな大会です」




……うわぁ、なにこの差。


おーいキャプテン。

年下の美羽ちゃんに負けてまっせー。





〝中体連〟………。


なるほど、なんかすごい大会なのはわかった。




でも、その大会がどうしたんだ。








美凪は、まるで自分が説明したかのように誇らしげにニンマリと笑い、腕組みをした。



「そーこーで! 今までウチらの先輩方が参加してなかったから、M中も廃校になるし、ウチらで中体連に出ようと思ったんだけど、どう!?」








…………シーン。



美凪の、やけに大きめな声がボロ体育館に響く。




あたしは、美凪をじっと見つめるしかできなかった。





……………あたし達が、中体連に、出るの……?!






「なにそれなにそれっ! 超面白そーっ! ね、出たい出たい!! 皆出たいよね?!」



和香がはしゃぎながら腕をぶんぶん振る。






……そりゃ、出てみたいなーとかはほんの一瞬だけ頭にかすったけど、





でも、経験者ゼロの集まりが中体連に出て、どうすんの───




勝てっこないじゃんか…………!











そう思ったのは、未希も同じだったみたいで。




「なに言ってんの? ド素人の集まりがのこのこと出るような大会じゃないでしょそれ。練習試合にだって勝てもしないのに」




未希の厳しく鋭い視線が美凪を捉える。



今まで笑っていた美凪も笑うのをやめ、真剣な顔で未希を見た。




「…弱小でもさ、出る価値はあるでしょ。なにも、弱いチームは出るなとか、そんなルールはないんだから」


「………」





その空気感に、うるさかった和香も黙った。





……そんなルールが正式にあるだなんて、思ってないよ。



あたし達みたいな、ド素人の集まりの弱小チームだって、出ようと思えば出れるのはわかる。





でも……………








「「出るなら、勝ちたい」」




っ!



未希とかぶった。









未希と目が合う。




「あたし、勝ちたいよ。やるなら勝ちたい」


「うん、ウチも。そろそろ、半端な気持ちでバスケやるのやになってきた」






「…和香も。ちゃんと練習して強くなりたい」


「私も、勝ちたいよ」






美凪は「じゃあ決まりだね」って笑った。



「中体連は7月! それまでに死に物狂いで練習だッッ!!」


「「「「オォーーーッッッ!!!」」」」





あたし、美凪、未希、蒼乃、和香、美羽ちゃん、計6名。



握った拳を高く突き上げて叫んだ。







──中体連。



あたし達は、強くなる。





勝ちにいくよ。












叫んだら、なんかエコーかかったみたいに響いて、皆してふはって笑った。




このメンバーで中体連まで頑張るんだ。






「…じゃー、未希」


「ん? なに」



美凪がちょいちょいと未希に手招き。



「ちょっと来て」


「はあ?! なんでウチだけ?! 意味不明! 別にウチじゃなくたっていーじゃんよ!!」



ぎゃんぎゃん文句を言いまくる未希を連れた美凪は体育館から出ていった。





それを見たあたし達は、今度は大声で笑った。




なにしに行ったんだろー?



…ま、どーだっていいか。





「ねーねー美羽ちゃん!」


「あ…はい」




ぅおっと?!


和香、ナンパ行為。


うーわサイテーサイテーサイテー。



気安く肩に腕回しちゃって。




「いやぁぁあっ、やめてよ和香ちゃん!」



ぬおぉぉっ?!



蒼乃、まさかまさかの参戦!?


蒼乃は、美羽ちゃんの腕をぐいっと引く。





え、えー……


なんか美羽ちゃん両サイドから引っ張られてるよ……。


モテるね、美羽ちゃん。







………って、いやいやいやいやっ!!
違う違う違う!!!


つーか、なにこの風景?!



えっ、なになになになに!?!?




これ、あたしも参戦すべき?





…ぅおいっ、ばっかじゃないの!?



早く行けッッッ!!!!


美羽ちゃんを助けるのだ高柳 棗ッッッ!