「…今まで大きなトラブルはなかった、っていうか、練習手こずってた時期もあったかもしれないけど、でも今回ほど大きなトラブルはなかったよね」
みんな、真剣に美凪の話を聞いている。
「でも、中体連前にこうなったってことは、みんな、中体連への思いが強いってことだよね?」
「…うん…っ、和香、勝ちたい…のっ」
和香は、もう泣いていた。
「未希の気持ちも聞いたし、和香の気持ちも聞いた。2人とも、思ってたことは同じだったよ。勝ちたい。ただそれだけ。それは、ウチだって、棗だって、蒼乃だってそう」
勝ちたい。
ただそれだけ。
うん、あたし達はみんな、勝ちたいんだ。
「和香だって、必死に頑張ってたんだよ。それは、未希もわかるでしょ?」
「…うん」
「和香は、大きな荷物抱えてたんだよ」
……大きな荷物…………
「試合でできなかったリバウンド。その後の練習も。中体連前だから、できなきゃいけないっていう焦り。自分がやらなきゃいけないって、プレッシャーとか」
和香は膝に顔を埋めている。
「それを真っ先に見つけて、助けたのは、未希」
そうだった。
未希が誰よりも、和香を心配してた。
「でも、勝ちたい気持ちが強すぎたんだよね。いいことだけど」
「だから、みんなでその荷物を分け合えばよかったんだよ。未希だけに任せないで、みんなで持ってあげたらよかった」
あの日は、みんな自分のことで精一杯だった。
〝中体連前〟
その言葉が、もっと上手くならなきゃって、あたし達を真っ直ぐに走らせすぎた。
途中で、プレッシャーと戦っていた、壊れそうになっていたその人さえも置いてけぼりにして。
「…だから、残り時間は少ないけど、今更だけど、みんなでやろう。大きな荷物発見したら、みんなで持ってあげよう」
もう、あたしは泣かない。
泣いてる暇はない。
「みんな……もちろん、中体連、出るよね?」
「「「「うん!!!!」」」」
あたし達は、中体連に出ると決めたあの日みたいに、拳を高く突き上げた。
もうその目に、迷いなんかなかった。
木、金、と最後の練習をしたあたし達。
もちろん、荷物はみんなで持った。
そして迎えた、今日。
───7月7日、土曜日。
会場は、R中。
「いつも通り! 肩の力抜いて、リラックス。ウチらは今までちゃんとやってきた。胸張って、そして、勝ちに行こう!!」
「「「「「オォーーーッッ!!」」」」」
今まさに、始まろうとしている。
あたし達の、最初で最後の、大舞台が。
「……棗ちゃん…緊張して…
「してないし! 全ッ然してないしっ」
………手汗ハンパないのは黙っとくよ。
今更、緊張なんて言葉似合わない。
今まであたしは、確かにやってきた。
なにも恥らうことも、他人の目を気にすることもない。
〝ピッ〟
「始めます!」
審判の声が聞こえる。
…………よし、行こう。
「先輩! 頑張ってください!!!」
美羽ちゃんのエールを背中に、あたし達、M中バスケ部5人は、コートに飛び出した。
絆と、勝利の色を身に纏って。
───さあ、勝ちに行こう
対戦相手は、白のユニフォームを着た、あのT中。
千鶴、
今日は、あたし達が勝つから。
覚悟しときな。
始まった。
あたし達の、最後が。
宙に浮くボール。
〝パンッ〟
「ナイス和香ッ!」
そして決まって、あたしのところにボールが来る。
「棗ッ!」
そして未希はもう走ってる。
あたしは未希にバウンドパスを出す。
───パサッ
「ナイッシュー未希ッ!」
「あったり前よ!」
よし、まずは先制点とった。
「ディフェンス! 止めるよ!」
「「「「はいッ!!!!」」」」
「ナンバーコール!」
あたしは、前と同じく、千鶴。
負けないから。
今日は、あたし達が勝つから。
〝パシッ〟
千鶴にボールが回ってきた。
来るか?
……さあ、勝負だ。
───ダムッ
事前に、右に行かせるために構えておいたから、千鶴がどんなに速いドリブルで抜こうったって無理だよ。
───パシッ
よしっ、カット!!
「棗ッ!」
おっ、美凪完全フリー!
しかもいいとこに!
「美凪ッ!」
あたしがロングパスを出すと、美凪はそれをキャッチしてシュー……
っ、なんだあいつ!?
むちゃくちゃ戻りが速い!!
美凪の前にはT中4番。
あたしが早く戻って、リターンパスもらっ………
「美凪ちゃん! パスパス!」
それよりも早かったのが、和香。
───バンッ
「ありがと!」
美凪からのパスを受け取った和香は、しっかりとジャンプシュートを決めた。
「ナイッシュー和香!」
なんだよー、あたしが決めようと思ったのに。
まぁいいや。
よし、これで4点。
あたし達の勢いは止まらなかった。
でも、T中も黙ってない。
「ナイッシュー!」
蒼乃のマークが上手い動きで蒼乃をかわし、点を決められた。
「ドンマイ蒼乃! 次止めよ!」
「さぁ、1本決めよう!」
「「「「はいッ!!!!」」」」
未希の声で、あたし達はオフェンスに切り替える。
「よし! 1番!」
1番とは、未希が攻めるパターンのオフェンス。
種類ごとに番号をつけた。