弱小バスケ部の奇跡





翌日の月曜。

朝のHR。


「えー…今日の欠席は……杉瀬さんと……原さんね」




和香と未希は、学校を休んだ。



「珍しいわねーこの2人が休むなんて。練習試合の疲れが出たのかしらね〜」



……なんて、先生は呑気に言ってるけど。




あたし達は、それどころじゃない。







考えたくないけど、




もしも和香が本当にバスケ部をやめたら、中体連は、どうなるの?



出れずに終わるの?





最低の終わり方。








そして、最低の別れ方。











あたしは未希と少し言い合いになったし、未希にはなんにもできない。





ねぇ、あたし達、ほんとにほんとに、こんな風に終わるの?




あたし、やだよ、こんなの。






こんなつもりじゃ、なかったのに………っ







翌日、火曜。


「今日も、杉瀬さんと原さんお休みね。…風邪かしら? やぁね中体連前なのに……」





………〝中体連〟……か。





あたし達、このまま、終わるの………?












放課後。



「おい、高柳、ちょっといいか?」



教室を出るところ、未希の彼氏である中田に声をかけられた。



「…あ、大谷も、加藤も」



中田に集められたあたし達は、そのまま教室で話をされた。








───それは、もう、


『バスケ部は終わりだ』と、


頭を何かで強く殴られたような痛みと共に


あたしの体に重くのしかかった。





「…昨日の夜、未希からメール来て………それで、






バスケ部を辞めたいって、言ってきた」











「はあっ!? なにそれふざけてるの!? 言ってる意味わかってんの!?」


「みっ、美凪ちゃん落ち着いて!」



わなわなと体を震わす美凪を、蒼乃が必死に止める。




「……それ、本当?」


あたしはもう1回中田に尋ねる。



「……あぁ。『お前マジ?』って聞いたら即答された」




………嘘でしょ…………




「………せない…」


「え?」


「許せない! ウチ、今から未希の家行く!!」


「「「えっ?」」」









「行って、話して、明日なんとしてでも部活来てもらう!」


「美凪……」




言い終わると、美凪は昇降口に走っていく。


「っ待って美凪っ!」



あたしが呼び止めると、美凪は顔だけ振り返った。



「……あたしも、行っていい?」



あたし、言い合いになったけど、本当はそんなことじゃない。

もっと他に、言いたいことがある。



だってあたしは、未希のこと、すごい尊敬してたから。




「………いいよ。行こう」


「っ! ありがとう」


「美凪ちゃん!」


今度は蒼乃が美凪を呼んだ。



「…あの、私は、和香ちゃんのとこ行ってくるね。明日、部活来てもらうように」









聞いた美凪は一瞬びっくりした顔をして、でもすぐに笑った。


「…ん、ありがとう。頼む」


「うん!」





こうしてあたし達は、それぞれの目的地へ向かった。






バス酔いなんか、気にしてる場合じゃなかった。



頭の中は、未希のことと和香のこと。





……このままじゃ、絶対終われないから。



このまま別れるなんて、考えられないから。










未希の家は、大きなマンションだった。



美凪は部屋番号を打ち込み、ボタンを押す。





ー…『はい、どちら様ですか』


「っ!」



未希の声だ。



「…ウチ、美凪。それから棗も。ちょっと話したいんだけど、いい?」


『…………』




あたしは、このまま帰されるんじゃないかと内心ひやひやしていた。




…でも、その心配はいらなかった。


『………』




プツリ、と切れたかと思ったら、そのまま自動ドアがゆっくりと開いた。



あたし達はそこを通り、エレベーターで未希のいる階に向かった。










603号室。


しっかりと『原』と書かれている。




〝ピンポン〟


今の空気には不似合いな、軽やかなメロディーが鳴る。




〝ガチャ〟

「………」


「あっ、未希」



顔を出した未希は、心底ウザそうな顔をしてあたし達を見た。




「…なに、バスケ部部長さんとエース・スリーポインターさんがウチになんの用」


「ッ!?」



他人行儀なこの感じ。


なにこれ………許せない…………










「…あれ、聞いてない? ウチ、バスケ部辞めるって言ったん…

〝パシッ〟



……え?




突如辺りに響いた、乾いた音。


未希は左頬を押さえ、美凪は横を向いて俯いている。




「…っいきなり殴んじゃねぇよッ!」




未希の怒声が響く。


それでも美凪は、俯いたままだ。




「……………んのよ…っ」


「…は?」



未希が美凪を思いっきり睨む。




「…あんたっ、自分の役割なんだと思ってんのよッッッ!?」