みんな一斉にしゃがみ込みそれを見る。
そこには、十数種類のユニフォームがずらりとならんでいた。
青いユニフォーム、黄色のちょっと派手めのユニフォーム。
……おぉなんか、紫のユニフォームまである。
「っあ! これ可愛いっ」
和香がそう言って指さしたのは、
「ウチは絶対やだよこれ!」
「私も…ちょっと、恥ずかしいかも……」
「………。」
未希は首をぶんぶん横に振り、蒼乃は遠慮がちに反論。
美凪は、目を点にしてぽかんと口を開けている。
あたしは、なんか瞬き回数増えた気する。
和香が指さしたのは、超〝女の子〟って感じの、ピンクのユニフォーム。
あたしは、着れないことはないけど、極力避けたい。
まぁ、恥ずかしい。
「だーめ。和香だけが着るんじゃないんだから。他のにしよ」
美凪が上手くまとめて、ピンクのユニフォームの話は終了。
和香、いじけないでね。
それから見ていくと、蒼乃が「あっ!」と、ある1つのユニフォームを指さした。
「ねぇみんな、これかっこよくない!?」
蒼乃が指さしたのは、赤のユニフォーム。
確かに、さっきのピンクよりは断然こっちの方がいい。
「いいじゃんこれ! かっこいい」
未希はうんうん頷いてる。
「蒼乃センスあるねー、いいよこれ!」
美凪もOK。
「赤かっこいい。あたしも、いいと思う!」
……ピンクよりは。
「和香は? どう?」
「…………」
しばしの沈黙。
「これ超かっこいいッ! 和香これがいい!!」
けってーい。
てかさっきのピンクは吹っ切れたのね。
「決まりましたか」
「はい。この赤のユニフォームでお願いします」
美凪はカタログを返しながら言う。
「わかりました。…中体連が終わったら、これは君たちにプレゼントですね。記念として」
えっ、いいの!?
やったーっ!!
校長は「では明日の練習試合頑張ってください」と言い残し、体育館を出て行った。
あたし達のユニフォームは、勝利の色・赤
……なんちって。
かっこつけてまとめてみた、あたし。
翌日、土曜、朝7時40分。
「おっはよー棗ちゃん!」
「んー…おはよ………す…」
「棗ちゃん起きてー」
……いやあたし、頑張ったよ。
だって7時に起きたし。
いつもより30分も早く起きたよ。
「ほら、バス来たよ!」
美凪達とは反対方向に住んでるあたし達。
ここからバスに乗るのは今日は2人だけ。
前のT中の時はこっから乗った方が近かったからみんなこっから乗ったけど。
今日はあたし達が向こう乗ればいいんだけど、ちょっとそれは勘弁。
あたしどんだけ早く起きればいいの。
あたしは蒼乃に介護されてるような恰好でバスに乗り込んだ。
街中って、ちょっといじめ。
遠いから、その分長くバスに乗らなきゃなんない。
バス酔いは治りません。
えぇ、治りませんとも。
だからあたしにとってはいじめ以外の何物でもない。
「…う……げ…やばいいい……っ」
「なっ、棗ちゃんっ、頑張ってあと少しだよっ!!」
これやばいな。
ほんとに介護されてるおばあちゃんみたいだわ。
約40分かけ、やっとS中前のバス停に到着した。
「おっはよぉっ! 蒼乃ちゃんに棗ちゃ…ななな棗ちゃんッ!?」
「ちょっと大丈夫、棗!?」
「…おぉーい、棗さーん?」
ゔぅ……
40分のダメージは、相当デカい。
なんか、飲み物………
「…棗ちゃん、これ飲んだら気分よくなるかも」
ちらりと視線を上げると、和香がペットボトルを差し出していた。
「……ありがと…和香…」
あたしはそれを受け取ると、一気にぐいっと飲み干した。
………ふぅ。
確かに、よくなったかも。
「ありがと、和香……っえ?」
和香はふるふると手を震わせ、口を開けてあたしを見る。
…え、なに、あたしなんかした?
「……棗ちゃ、ん。それ、さ、和香の飲み物……」
「うん、知ってる。ありがと」
「………」
……え?
なに、あたし言っちゃいけないことでも言った?
「……和香…今日飲み物、それしか、持ってきてな……
「買えばいーじゃん!」
美凪!?
「ないなら買えばいーじゃん!」
「や、無理だよぉ。お金持ってきてないもん!」
「なら学校の水道で飲みな」
「やぁだやぁだぁ」
……なんかあたしめっちゃ悪い人じゃん。
「でも、棗にあげたのは和香自らだったでしょうが」
「蛇口から桃のジュース出ないかなぁ?」
「聞いてる人の話?」
未希は完全呆れ顔。
ていうか、蛇口から桃のジュースって…。
「おはようございます!」
「「「「「おはようございます」」」」」
美凪に続いて、未希、あたし、蒼乃、和香、美羽ちゃんが挨拶。
S中のみなさんとご対面。
なんか、T中とは違って、みなさん穏やかな表情してる。
ちょっと安心。
連れていかれた更衣室で試合の準備をし、ぞろぞろと出る。
さぁ、始まるぞ───