弱小バスケ部の奇跡






次は蒼乃が攻めるパターン。



ミドルで未希からパスをもらい、シュートフェイクをしてから1ドリブル。

そしてジャンプシュート、というもの。



これもすんなり。



ていうか蒼乃、いつの間にかジャンプシュートすっごい上達してる。



やっぱりみんな努力してるんだ。




そして次は和香が攻めるパターン。



未希が中に入った和香にパス、未希は走り込んで和香からリターンパスをもらう、フリ。

和香もリターンパス出すフリをして、逆方向に1ドリブルしてジャンプシュート。



これは、ちょっと苦戦。



「和香ッ、軸足動かしちゃダメ! トラベリングなる!」



「1ドリブルと回転素早く! もたもたしてたら取られるよ!」










みんなの懸命な指導によって、めでたく和香もクリア。





そして、いよいよ次はあたしが攻めるパターン。



あたしはやっぱりスリーを打つらしく、まず0°に落ちる。

未希が中に入った和香にパスを出し、和香にディフェンスが集まったところで、外にいるあたしにパス。


そしてあたしは落ち着いてスリーを打つ。




───スパッ



「ナイッシュー棗ッ! もう棗にボールが渡れば安心だねウチら」


美凪が満足そうにそう言った。




でも、あたしはスリーだけを打つわけじゃなくて。



試合中、あたしがスリーばっかり打ってたら、相手はスリーしか打たない、って思う。


そこで、スリーのマークが厳しくなったら、あたしはシュートフェイクを1発入れてドリブル、からのジャンプシュートもしくはバックシュート。



攻め方はたくさんあった方がいいしね。










そしてそして、キャプテン美凪はというと。



「あぁ、ウチは何でも屋だから、オールポジションのプレーをできるようにしとくよ」



……とのこと。


か、かっけー。

頑張って。






月、火、水、木と、その4日間はチームプレーを体に染み込ませた。


なにも考えなくても、自然と身体が動くようになるまで、ひたすら繰り返す。




できた時の喜びは、あたしの母さんが実証済みだから。


だからあたし、楽しみ。

試合でチームプレーが上手くいく瞬間。










金曜。


もう今月も、今日で最後。

ほんと、時間が経つのが早い。





みんな集合時間も早くなってきた。

意識の表れだと思う。






いつも1番乗りで練習をしている美凪は、今日は珍しくまだ来ていない。


あたし達は美凪が来るまで自主練。




あたしはスリーと、フェイクからのジャンプシュート、バックシュートの練習。

もちろん、切り込む時のドリブルも。







つくづく、あたし思うんだけどさ。


ほんの2ヶ月前なんか、あたし球技ダメとか言ってボールが言うこと聞かないし、ましてやドリブルやシュートなんかはもってのほかで、なんにもできなかった。









それなのに今。



あたしはこんなにもたくさんの技を身につけた。



前よりも確実に、上手くなった。





でもそれはあたしひとりの力でこうなったわけじゃなくて、みんながいたから。



あたしを支えてくれるみんながいたから。




そして、みんなで転びながらも、なんとかここまでやってきた。


みんな、上手くなった。


それは、みんなの今のプレーとか、雰囲気とか、それを見たらすぐわかる。

あたし達が、頑張ってきた証。






残り1週間になろうとしてる。



………1週間後、あたし達は、一体どんな顔してる?



笑ってる?

泣いてる?




あたしは、




みんなで笑い泣きしたいな、なんて。











しばらく練習してたら、ようやく美凪が来た。



「もーうっ、おっそい美凪ちゃん!」


和香が頬を膨らませて言う。



「ごめんごめん」


美凪は手を合わせて謝る。



確かに遅かったけど、でも美凪、もうジャージになってるし、バッシュも履いてる。




「よーし集合!」



美凪の声であたし達は集合した。










「明日で丁度、中体連まで1週間。ここまで、みんな本当にありがとう。こんなキャプテンについて来てくれて」


美凪の目は真剣だ。



「この調子で、中体連までラストスパート頑張ろう!」


「よーっし、和香頑張るっ」


「私も! もっと動けるようにならなきゃ」


「ラスト1週間、みんなで頑張ろう!」


「絶対に、勝とうね! あたし達」





最初で最後の試合なんだ。


負けるわけにはいかない。




「…で、明日なんだけど、さっき学校に電話かかってきて、S中と練習試合することになりました」



おぉ。

中体連前最後だからか。








「ねぇ美凪ちゃん、そのS中って、どこ?」


和香が首を傾げる。



「あぁ、結構街中にある中学校らしいよ。明日は、S中で練習試合だから」



へぇ。


てことは遠いのか。




「だから今日のメニューは明日に備えて、チームプレーの確認と、それからディフェンスの確認。あと、それぞれのポジション別プレーの練習かな」



今日はやることがいっぱいだ。




「さて、まずは走り込みから……
「大谷さーん」






いきなり、向こうから美凪を呼ぶ声。

声からして、多分大人。



なんだ、誰だよ。








みんな、走ってくるその人を見る。



……っておい、


「校長先生!」




…え、えー…


この小太りの校長、走れんの!?

うわぁ甘く見てたごめんなさい。




「みなさん、こんにちは」



言いながらちょっと息切れてんじゃん。




「…みなさん、大事なことを、忘れていますよ」


「…大事なこと?」


蒼乃が首を傾げてそう言う。






「君たち、中体連の試合には、なにを着て出るんですか?」


「「「「「……………。」」」」」





…………。




うん、忘れてた。