弱小バスケ部の奇跡






「上手でも下手でもない選手だったけど、とにかくバスケが大好きだったの。プレーが上手くいった時なんかはうるさいくらいにはしゃいでたし、チームプレーで点が決まった時なんかはなおさら」



母さんは、本当に懐かしそうに目を細めた。



あたしは練習を忘れて、母さんの話に耳を傾けていた。




「でも中2の時ね、バスケできなくなったの」


「え…」



なにか、あったんだろうか。





「膝に、水が溜まっちゃってね。ドクターストップかけられて、お医者さんに、バスケやめなさいって言われたの。お母さんにも」




膝に水が溜まった………?



「このまま続けたら悪化して、最悪歩けなくなるって言われちゃったもんだから、やめるしかなかったのよねー…」




母さんに、そんなことがあったなんて、知らなかった。












「だから中体連出てないのよね。コートの外から、叫びながら応援してた。内心、すっごい悔しかったけど」



そりゃそうだ。


努力してきたのに、それが怪我のせいで水の泡なんて………。



今あたしがそうなったら、なんて考えたくもないけど、あたしだったら無理にでもやりそう。




「…一生懸命練習してる棗を見たら思い出してね。話しちゃった」


母さんは、ふふ、と笑う。




「棗、残りの1週間ちょっと、本当に大事に過ごしな。特に、この4ヶ月間は、棗にとって一生もんの宝物になるから。美凪ちゃん、未希ちゃん、蒼乃ちゃん、和香ちゃん。みんながいたからこそ、ここまでやってこれたんだからね」


「…ん、うん」




そうだ。


あたしひとりでここまでやってきたわけじゃない。



みんながいたからこそ、今のあたしがいる。










母さんは「よし」と言い立ち上がる。



「最初で最後の試合なんだから、勝ってもらわなきゃ。母さんも、中学戻った気になって、棗の練習手伝うよ」



そう言ってまた、穏やかに笑う。





あたし、母さんが母さんでよかった。


なんか、心からそう思った。




「ほら、棗はスリーポインターなんでしょ? 母さんディフェンスやるから、ちょっと打ってみなよ」


「っちょっとナメないでよ!? あたし現役なんだから!」








なんかあたし、思ったんだ。


母さんが中体連出れなくて悔しかった想いをあたしが一緒に担いで、それであたしが頑張って、母さんが見てくれたら、なんか、母さんも出てる気になれるかなって。



なんか、ちょっとクサいかもしんないけど、本当にそう思ったんだ。












───スパッ



「ナイッシュー棗!」


「どうも」




昨日は母さんと結構練習したから、ディフェンスが来ても落ち着いて打てるようになった。





チャンスの時こそ平常心。


そう、平常心平常心。




未希のドリブルも相変わらずキレてるし、蒼乃も和香もゴール下のシュート、リバウンド共にすごい頑張ってる。


美凪の指示でみんなまとまってて、なんか今、チームとしてすごいいい感じ。




そしてマネージャーの美羽ちゃんも、すっごく頑張ってくれてる。


元は他校の生徒なのに。





やっぱりあたしは、この仲間に、この環境に、感謝しなきゃって思う。









「よーし集合!」


「「「「はいッ」」」」




うん、集合も、前より早くなった気がする。



みんな、中体連への意識がだんだん高まってきてるんだね。




「今日はいよいよ、チームプレーの練習に入ります! 前にウチと未希で考えたやつがあるから、今日はそれを実際にやってもらうよ」




………〝チームプレー〟



これが上手くいった時は、はしゃいだんでしょ母さん。




「じゃあ早速始めるよ。まずは、未希が攻めるパターンから」




未希が攻めるパターンは、和香が中に入り未希が和香にパス。

そして未希が走って和香からリターンパスをもらってレイアップ、というものだ。



未希も和香も集中してるからか、すぐにできるようになった。









次は蒼乃が攻めるパターン。



ミドルで未希からパスをもらい、シュートフェイクをしてから1ドリブル。

そしてジャンプシュート、というもの。



これもすんなり。



ていうか蒼乃、いつの間にかジャンプシュートすっごい上達してる。



やっぱりみんな努力してるんだ。




そして次は和香が攻めるパターン。



未希が中に入った和香にパス、未希は走り込んで和香からリターンパスをもらう、フリ。

和香もリターンパス出すフリをして、逆方向に1ドリブルしてジャンプシュート。



これは、ちょっと苦戦。



「和香ッ、軸足動かしちゃダメ! トラベリングなる!」



「1ドリブルと回転素早く! もたもたしてたら取られるよ!」










みんなの懸命な指導によって、めでたく和香もクリア。





そして、いよいよ次はあたしが攻めるパターン。



あたしはやっぱりスリーを打つらしく、まず0°に落ちる。

未希が中に入った和香にパスを出し、和香にディフェンスが集まったところで、外にいるあたしにパス。


そしてあたしは落ち着いてスリーを打つ。




───スパッ



「ナイッシュー棗ッ! もう棗にボールが渡れば安心だねウチら」


美凪が満足そうにそう言った。




でも、あたしはスリーだけを打つわけじゃなくて。



試合中、あたしがスリーばっかり打ってたら、相手はスリーしか打たない、って思う。


そこで、スリーのマークが厳しくなったら、あたしはシュートフェイクを1発入れてドリブル、からのジャンプシュートもしくはバックシュート。



攻め方はたくさんあった方がいいしね。










そしてそして、キャプテン美凪はというと。



「あぁ、ウチは何でも屋だから、オールポジションのプレーをできるようにしとくよ」



……とのこと。


か、かっけー。

頑張って。






月、火、水、木と、その4日間はチームプレーを体に染み込ませた。


なにも考えなくても、自然と身体が動くようになるまで、ひたすら繰り返す。




できた時の喜びは、あたしの母さんが実証済みだから。


だからあたし、楽しみ。

試合でチームプレーが上手くいく瞬間。










金曜。


もう今月も、今日で最後。

ほんと、時間が経つのが早い。





みんな集合時間も早くなってきた。

意識の表れだと思う。






いつも1番乗りで練習をしている美凪は、今日は珍しくまだ来ていない。


あたし達は美凪が来るまで自主練。




あたしはスリーと、フェイクからのジャンプシュート、バックシュートの練習。

もちろん、切り込む時のドリブルも。







つくづく、あたし思うんだけどさ。


ほんの2ヶ月前なんか、あたし球技ダメとか言ってボールが言うこと聞かないし、ましてやドリブルやシュートなんかはもってのほかで、なんにもできなかった。