和香………っ、
頑張れ…………っ!!!
〝パァン〟
ボールは、なんと、和香の手によってあたしの方に弾かれた。
あたしは呆然とキャッチ。
「はいッ、棗ッ!」
「っえ?」
声のする方を見ると、未希がゴールに向かって走っていた。
「パス棗ッ」
「あ、うん!」
あたしは、おそらくジャンプシュートをするだろうと予想して、未希の1歩前にバウンドパスをした。
「ナイスパス棗!」
未希はそのパスを難なくキャッチし、綺麗にジャンプシュートを決めた。
ナイッシュー!
……てか、今のなんなんだ?
「ナイスプレーだよ、未希と棗!」
美凪があたし達にそう言った。
「未希はナイス判断。実際の試合の時は、ジャンプボールからボールが渡った瞬間から試合は始まってるの。今みたいに和香が勝ってウチらボールになったら速攻。ゴールに近い人はすぐ走って、キャッチした人はすぐパス出す」
あぁなるほど。
今はジャンプボールの練習だけど、ここから速攻の練習にも発展するんだ。
それを未希は判断したってことか。
やっぱ、未希はすごい。
あたしが理解して頷いていると、急に和香が叫んだ。
「やったぁぁぁぁぁぁあっっ!!! 勝ったっ、美凪ちゃんに勝ったぁぁぁぁぁぁあっっ!!!!」
………。
普通はそうあるべきなんだよ。
身長は和香の方が高いんだからさ。
まぁ、いっか。
初めてジャンプボール勝ったもんね。
おめでとう和香。
その叫び声は、勝ったって喜びの叫び声ってことで、耳が壊れそうになったのには目をつぶっておくとしよう。
土曜の悲劇、再び。
「〜っ、なんでこんなにあっついわけ!?」
せっせと準備をしながら、すでに汗かきまくりの美凪。
もう6月下旬。
夏が暑いのは、どうしたって変えようのないこと。
どんなにすごいお医者さんにだって敵わない。
まぁ、暑いのが夏の特権なわけで。
今更文句言ったって、太陽はいなくなりゃしない。
でもあたしも今日ばかりは暑すぎて、これは帰ったらかき氷だ、と頭の中で思ったり。
10本ダッシュ、ストレッチ、フットワーク。
いつも通り終え、シュート練習に入る。
レイアップ、ミドル、ジャンプシュート、フリースロー。
あたしと未希は、これプラス、バックシュートとフックシュート。
それを終えてからやっと休憩。
休憩を5分とったら、美凪があたし達に集合をかける。
「今日から本格的に、ポジション別練習に入ります!」
ってことは、別々の練習になるのかな。
美凪が発表していく。
「蒼乃と和香は、ゴール下のプレーとリバウンドの練習」
和香は、昨日美凪にジャンプボールで勝ったことで、ずいぶん跳ねるようになった。
なんか、常にふわふわしてる。
そして、リバウンドに対しても燃えているに違いないだろう。
「よーっし、和香頑張るッ!」
…ほらね。
「私も頑張る!」
うん、蒼乃も頑張れ。
「未希はドリブル…って言いたいとこだけど、申し分ないくらい上手いからとばす。ウチとチームプレー考えて!」
さすが、ドリブルの神・未希。
申し分ないくらい上手い、だって。
羨ましい。
「…でー、棗が1番大変かもね」
美凪は苦笑いを浮かべる。
「ポジション発表の時にも言ったけど、棗には〝スリーポインター〟になってもらうから。だから、スリーポイントの練習!」
………あ、あぁ。
言ってたような……なかったような…。
「ほんとに大変だろうけど、棗なら絶対できるから! ウチが保証するッ!」
美凪に背中をぽんっと叩かれる。
美凪は、たぶんあたしに期待してくれてるんだ。
あたしは、その期待に応えなきゃ。
「うん、絶対やり遂げてみせるから!」
あたしは、任しとけって意味で左胸を拳で叩いた。
「それじゃ、練習開始ッ!」
美凪の声を合図に、蒼乃と和香は仲良くゴールに向かい、未希は作戦板を向こうから引っ張り出す。
残された、あたしと美凪と美羽ちゃん。
……にしても、スリーポイントってどうやって練習すんだ?
だって、この線からでしょ?
任しとけって思ったけど、なんかあたしにできんのか不安になってきた。
もう2週間切ってんのに………
「初めは入らなくて当たり前だから、焦ることも自分を責めることもないよ。ね、棗」
「…あ、うん」
なんか、美凪に見透かされたみたい。
美凪はボールを持つと、角度のない0°、バックボードのない位置に立った。
「最初はここから練習するといいよ。ボードないから、シュート決めるには真っ直ぐ打たなきゃいけないからね」
美凪はそう言って、そこからシュートを打った。
───ガンッ
ボールはリングの手前に当たって跳ね返った。
「外したーっ」
美凪はへらっと笑った。
「届かなくていいから、まずはフォームだけを考えて練習して」
「うん、わかった」
美凪はそう言うと「じゃあ美羽ちゃんよろしく!」と言って未希の元へ走って行った。