───スパッ
入った
……ような音。
ボールがネットにかすった。
よし、も1回!
───ダムダム
───ガンッ
ボールはリングの手前に当たって跳ね返った。
むろん、線は踏んでない。
さっきより届くようになってる。
確実に。
よし…っ
それから、たぶん、30本くらい打った。
…31本目。
───ダムダム
2ドリブル。
全神経をボールとゴールに集中させる。
アーチ高く、全身で……シュート………!
───スパッ
入った。
かすったんじゃない、ちゃんと入った。
31本目にして、あたしのフリースローはやっと決まった。
よっしゃ!
やっと入った!!
「すごいすごいッ! 棗ちゃんッッ!」
異様に高い声に名前を呼ばれ振り返ると、カエルみたいに連続ジャンプしながら向かってくる和香。
それ、疲れない?
「見てた見てたっ! 棗ちゃんがシュート決めた時!!」
和香は今もカエルジャンプで喜びを全身で表現中。
人の成功をそんなに喜べるの、和香。
だとしたら、かなりいい人だけど。
「和香も頑張らなきゃ!」
「うん、頑張れ………」
って、待って待って。
和香、もしかして…………
「まだ1回も入ってない?」
………いや、やっぱそりゃないか。
「うんっ!」
できれば、自信たっぷりで頷かないでほしかったよ。
「跳べーっ!!」
「無理っ!!」
「ほらッ! もっと跳べるでしょ!?」
「無理無理っ!!!」
ちょうど教室掃除が割り当たって、しかもハエごときでギャーギャー騒ぐ女子によって、あたしの部活参加はとてつもなく遅くなった。
それで、超急いで体育館に向かった途端に、これだ。
美凪と未希にしごかれてる(?)和香と、それを遠巻きに若干、いやかなり、引きながら見る蒼乃と美羽ちゃん。
もう、和香は半泣き状態。
なんなんだ、この状況。
あたしは後ろ姿の蒼乃にそーっと尋ねる。
「…あのー……これは一体どういった流れでこーゆー風に」
「あっ、棗ちゃん!」
「棗先輩こんにちは」
隣にいた美羽ちゃんも、同時に振り返った。
蒼乃は苦笑いしながら、経緯を説明してくれた。
そろそろポジション別の練習をすると言った美凪が、和香にリバウンドを練習すると言った。
しかしジャンプ力は、PGの未希よりもなく、美凪噴火。
よって、美凪と未希によるリバウンド指導がなされた、と。
それがあまりにも厳しく、和香はあんな状態になっている、と。
頷ける。
ポジション発表された時、和香がリバウンドするポジションだと聞いて、あたし確か、蒼乃よりジャンプ力ないじゃん、って思ったような。
でも、バスケ部の中で唯一の160センチ超えの人が、なんで155センチの未希に負ける。
まさかあなた、ジャンプボール未希に任せようとか、そんなこと思ってんじゃないでしょうね。
「こらーッ! まだ跳べるでしょッッ!」
「なんでウチに負けてんだ和香ッ」
「ひぃぃぃぃぃいっっっ」
……あーあ、また負けてるよ。
ちょっと頑張ってよ和香。
その時。
「蒼乃ッ、ちょっとカモン!」
「っえぇっ、わ、私!?」
蒼乃、美凪に連行されてる。
「和香ッ、蒼乃と練習して! 同じリバウンド組で!」
「……ゔぅ、うん」
和香弱ってるーっ。
ほんと頑張って和香。
「せーの言ってからジャンプね!」
「和香ちゃん、頑張ろ!」
「…うん。よーっし、頑張る!」
未希が「せーの!」と言い、体制を低くする2人。
そして、ジャンプ───
「っ!!」
………う、そ。
結果はもちろん蒼乃の方が跳んでるけど、それよりなにより、和香のあり得ないジャンプ力に自身の目を疑いたくなった。
「こら和香ッ! 今までで1番跳べてない!」
跳んだ高さ、推定1センチ弱。
これにはあたしもびっくり仰天。
それから何回か蒼乃と練習してた和香だけど、一向に蒼乃に勝つ気配がないので、ついに美凪が動いた。
「棗ッ、カモン!」
「ぅえぇっ、あたしまで!?」
「いーから早くッ!」
今度はあたしが連行されてる。
「和香、棗に負けたら、もう、終わり」
…なにそれ。
なんかあたし、めっちゃ跳べないやつみたいな扱い。
「あっ!」
あたしを見た和香は、急にぱああっと顔が明るくなる。
「和香、棗ちゃんには勝てるかも!」
「はあぁ?!」
くっそ、和香にまで見下されてるし。
くっそ、負けないし。
「せーの!」
ふんっ!!!!
着地したら、美凪と未希は「あーあ」って顔をした。
「和香、終わったね」
いよっしゃ勝ったあぁぁぁぁあっっ!!!