弱小バスケ部の奇跡




あたしも後を追い、全員が美凪の周りに集合した。




「今日は〝フリースロー〟の練習!」



なんかまた新しく単語出てきた。




「フリースローは、シュート時にファウルされた時に打つシュートね」



美凪は、ある1本の線に合わせて立った。



「ファウルされてフリースローが与えられた時は、この線から打つ」



美凪はそう言ってから、なんと跳ばずに、シュートを決めた。




「…あ、ちなみに、ファウルされてなおかつシュート決まったら、フリースローは1本。外したら2本。あ、これは2ポイントエリアからのシュートの場合ね。中学の女バスではなかなかないけど、3ポイントの場合は最大3本」



美羽ちゃんが、1人1人にボールを渡してくれる。



「じゃ、練習始め! まずはミドルと同じ感覚で、跳んで練習してみて」



あたし達はそれぞれゴールに散らばった。









あたしはいつも使っているゴールに向かうと、さっき美凪が立っていた線を見つけ、そこに立つ。



そして打った、フリースロー。






───ガゴンッ


ボールはキレイに跳ね返り、真っ直ぐあたしのもとに戻ってきた。




「最初はキツいよね」



後ろから声がして、振り返ると美凪が立っていた。



「でも、前に跳びすぎだよ棗」


「え……」



美凪に言われて足元を見ると、あたしがさっきまで立っていた線は遥か後ろ。




あたし、そんなに跳んだ?




「線踏んだら、もし入ったとしても点入らないからね。まずは、真っ直ぐ上に跳んで打つ練習からだね」



美凪が「ほい、練習練習」と言い、あたしは再びゴールと向かい合う。










真っ直ぐ上に跳ぶ───







───ダンッ……



あたしの打ったシュートは、ネットにかすりもせず、そのままフロアに落下。





恥ずかしいことこの上ない。



「いいよ今の! ほら、線踏んでない!」


美凪に言われ見ると、確かに踏んでいなかった。




いやでも、エアーボールはないだろう。


せめてかすれよあたしのシュート。




若干うな垂れるあたしに、美凪はあたしの背中を豪快に引っ叩いた。



「いっ…」


「初めはそんなもんだって! 棗が特別下手なわけじゃないんだから!」





えぇ、特別下手なら相当凹みます。


今まで、なんとかここまでやってきたわけですから。










「ほら、練習練習! 繰り返せば絶対できるようになるから!」



美凪は踵を返し『それはシュートですか?』と思わず尋ねたくなるようなおかしな恰好のシュートを打つ和香のもとに走った。




「なんじゃそのフォームはぁぁぁあッッ!? ナメとんのかこるあッッッ」


「きゃーーーーーーっっっっ!!!!」





うるせーーーーいッッッ!!!


若干関西弁女と奇声女ぁぁぁぁあッッッッ











「…ふんっ……ふんっ……」


「なにあんた、急にどうしたの?」




我が子を半笑いで見ながら、顔面真っ白のあたしの母さん。




「……んなの、見りゃ、わかるでしょ。…腕立てだ、よ」



シュートは、いくら全身で打つとはいえ、やっぱり多少は腕の力も必要なわけで。



今更ながら、腕立てをやり始めた。





………つーかそれより、


「母さんこそ急にどうしたわけ? 今まで美容とか興味ない的なこと言ってなかった?」




腕立て50回2セットを終えたところで、ちょっと休憩。







………にしても、それはちょっと恐怖だよ母さん。













あたしの目の前には、顔面真っ白…………




いわゆる『顔パック』をした母さん。



しっかり確認できるパーツは目と口だけ。

白いとこから、目と口だけが覗いている。




暗闇からこれ出てきたら絶対怖い。


てか今の状態でも、ある意味ホラー。




「いーじゃないの別に。目覚めたのよ♪」


「………なにに」


「び・よ・う♪」


「ぶッ」




美容に目覚めた結果が『顔パック』?


あたしにゃよくわからん。










母さんが白い顔で見ているテレビは、どうやらバラエティ番組っぽい。



女タレントのアホなボケに、すかさずMCが際どいツッコミをかます。



それを見て盛大に笑う母さん。

白い顔が歪み、さらにコワさ倍増。



あたしは見ないように、床とにらめっこしながら腕立てを再開した。






ー…『やー昔ワタシ、部活やってるわけでもないのになぜか筋トレに目覚めちゃって、毎日腕立てやってたらヘタに男子よりも筋肉ついちゃって、彼氏にめっちゃ引かれたんですよぉ』




…む。


『腕立て』に反応し、あたしは一旦やめて顔を上げた。








「…ですって♪」


「んあ?」



母さんはその白い顔の口元を歪ませて、今のタレントの言葉を繰り返した。




「〜っ、うるせいっ!」



あたしは残りの腕立てを急速に終わらせると、ダッシュで自室へGO。




そいつとは違って、あたしは部活やってるし、彼氏もいないから引かれることもないですよーだ。





腕立てなら、初めっからここでやっときゃいい話だった。



あたしは自分で自分を恨んだ。










なんか、届くよ。





───スパッ




え、あれだけなのに?





───スパッ




「棗ちゃんすごいね! それ、跳ばなくてもできるんじゃない?」



跳びながらフリースローを2本連続決めたあたしに、目を輝かせた蒼乃がそう言った。




「え、どうだろ。まだ、慣れたばっかだから」


「1回やってみてよーっ」



蒼乃が、ディズニーランドに来た子供のような笑顔でそう言うから、あたしは1回だけ打ってみることにした。





───ダムダム


線の前に立ち、2ドリブル。



それからゆっくり体制を戻し、ゴールとしっかり向かい合う。