……結構今の自信あったんだけど、ダメ?
「顔に出すのはさ、フェイク入れる時でいいんだよ? なにも、次抜くよ、って顔に出さなくてもいいじゃん?」
美凪はあたしの手からボールを取ると、1発フェイクを入れた。
「ぅおっ!?」
「これだよこれ」
「…?」
これ?
……どれ?
「フェイクは、大袈裟なくらいがちょうどいい。ほら、棗も大袈裟にやってみなよ」
美凪はあたしにボールを返すとそう言った。
大袈裟に、ね。
確かに、それなら騙せるかも?
あたしは美凪と向かい合うと、大袈裟に1発、フェイクを入れた。
「はっ!」
「わざとらしい」
「………。」
普通にやれば『胡散臭い』。
大袈裟にやれば『わざとらしい』。
これはもう、なす術がないのでは。
美凪はしばらく考え込んだ。
そして「そうだ!」と手を叩いた。
「棗、1回さ、本気で行ってみて」
「……え、え? どういうこと」
「実際には抜かなくていいから、1回本気で抜くつもりでやってみて」
抜かなくていいから、本気で抜くつもり。
つまり、抜く直前でストップしろってわけか。
うん、わかった。
ボールを持ち直して美凪と向かい合う。
そして、左足とボールを前に出した。
……ん?
なんかなんか、さっきのよりも自然な感じがするのは、あたしの気のせい?
「…うん、今の方が断然いい! 自分でも違うってわかったんじゃない?」
「……うん」
今のはきっと、胡散臭くも、わざとらしくもないはず。
「今の感じで、練習繰り返したら慣れると思うよ。今のは、胡散臭くもわざとらしくもなかったし」
美凪は親指を立てて笑った。
ほっ。
よかった。
「よーし、も1回!!」
「うい!」
土日の練習は、ひたすらフェイクの練習。
1対1のフェイクもだし、新しく、シュートフェイク、ってのも練習した。
シュートする時にディフェンスを騙すためのフェイクね。
これが案外、あたし上手くて。
慣れたらほんとに体に染みついてて、体が勝手に動くんだよね。
月曜は部活休み。
そして、火曜の放課後。
「棗ちゃん、1対1練習しよ! 和香がディフェンスやるから!」
「あーうん、いいよ」
フリー練習の時間、和香があたしにそう言ってきた。
必然的にオフェンスのあたしは、もちろんフェイクやるつもり。
「よーっし、絶対止めるからね!!」
「あたしは負ける気はないよ」
ボールを持って向かい合う。
あたしはあの後、右フェイクも習得した。
左右どっちもできる。
つまり、瞬時に判断して思うようにフェイクが使えるってこと。
あたしは早速、ミドルからのシュートフェイクを1発。
和香は見事に引っかかる。
和香がジャンプした隙に、あたしは得意の右ドリブルで抜いてレイアップを決めた。
「『絶対止めるからね!!』って言ったの誰だっけ?」
あたしは意地悪く和香に言った。
和香は案の定、頬を膨らませて言う。
「今のは違う! 今はちょっと、背伸びしたくなって…」
あまりにもわかりやすすぎる和香の言い訳に、あたしは思わず笑う。
「あーはいはい、言い訳どーも」
「だから違うもん!!!」
和香がマジな目でそう言い続けるから、あたしはもう、笑いっぱなし。
「集合!」
「ほら、集合だって」
美凪の声に、あたしはついにふてくされた和香に呼びかける。
「……もーう! 次は絶対負けないからね!」
あたしを指差し、ビシッと言い放った和香は、小走りで美凪のもとへ行った。
あたしも後を追い、全員が美凪の周りに集合した。
「今日は〝フリースロー〟の練習!」
なんかまた新しく単語出てきた。
「フリースローは、シュート時にファウルされた時に打つシュートね」
美凪は、ある1本の線に合わせて立った。
「ファウルされてフリースローが与えられた時は、この線から打つ」
美凪はそう言ってから、なんと跳ばずに、シュートを決めた。
「…あ、ちなみに、ファウルされてなおかつシュート決まったら、フリースローは1本。外したら2本。あ、これは2ポイントエリアからのシュートの場合ね。中学の女バスではなかなかないけど、3ポイントの場合は最大3本」
美羽ちゃんが、1人1人にボールを渡してくれる。
「じゃ、練習始め! まずはミドルと同じ感覚で、跳んで練習してみて」
あたし達はそれぞれゴールに散らばった。
あたしはいつも使っているゴールに向かうと、さっき美凪が立っていた線を見つけ、そこに立つ。
そして打った、フリースロー。
───ガゴンッ
ボールはキレイに跳ね返り、真っ直ぐあたしのもとに戻ってきた。
「最初はキツいよね」
後ろから声がして、振り返ると美凪が立っていた。
「でも、前に跳びすぎだよ棗」
「え……」
美凪に言われて足元を見ると、あたしがさっきまで立っていた線は遥か後ろ。
あたし、そんなに跳んだ?
「線踏んだら、もし入ったとしても点入らないからね。まずは、真っ直ぐ上に跳んで打つ練習からだね」
美凪が「ほい、練習練習」と言い、あたしは再びゴールと向かい合う。
真っ直ぐ上に跳ぶ───
───ダンッ……
あたしの打ったシュートは、ネットにかすりもせず、そのままフロアに落下。
恥ずかしいことこの上ない。
「いいよ今の! ほら、線踏んでない!」
美凪に言われ見ると、確かに踏んでいなかった。
いやでも、エアーボールはないだろう。
せめてかすれよあたしのシュート。
若干うな垂れるあたしに、美凪はあたしの背中を豪快に引っ叩いた。
「いっ…」
「初めはそんなもんだって! 棗が特別下手なわけじゃないんだから!」
えぇ、特別下手なら相当凹みます。
今まで、なんとかここまでやってきたわけですから。