1時間くらいバスケ…というか、ボールに好かれようと努力するあたし。
「よーっし、日ぃ沈んできたから、今日は終わりにしよう!」
「ん、終わろー」
美凪が声を掛けると、未希はドリブルをやめた。
「お疲れー皆」
和香も続いてボールをしまう。
「おつカレー」
「おつかレンコン」
……む?
「きゃはははははっっ!! なぁにそれ2人ともっ!! 思いっきしカブっちゃって〜っっ」
和香、お得意の高笑い。
一体どこからそんな声が出るんでしょうかね?
あたし、いろんな意味で唖然としてます。
「ウチは、蒼乃の『おつカレー』派かな」
「いーやいや、ウチは絶対棗の『おつかレンコン』だよ♪」
未希は蒼乃派、美凪はあたし派、とかなんとか………
「2人はよく気ぃ合うんだって〜♪ ねーっ、棗ちゃんと蒼乃ちゃんっ?」
「………」
「………」
「…ありゃありゃ、無視られちゃったぁ」
そして再び、和香の高笑い。
………なーんでカブっちゃったんだ……。
ー帰り道。
「ね、棗ちゃん、さっき超ウケたね!」
さっきの『おつカレー』と『おつかレンコン』のことですよね。
「……あー………なんであんなグッドタイミングに…………」
「…え、棗ちゃん?」
終始、あたしの頭はそれで埋め尽くされたのだった。
それから、約1週間後。
あたしは今日もボールに懐いてもらおうと頑張ってドリブル特訓中。
隣の未希はやっぱり上手い。
フロントチェンジとか、ロールとか、難なくすいすいとこなしている。
下手くそとはわかっていながら、ちょこっと真似てみる。
───フロントチェンジ
「…っあ」
ドリブルつく位置を失敗し、ボールは見事に足直撃。
ボールはコロコロ転がって壁に当たって、方向を変えてまた転がっていった。
ボールは体育館入口まで転がり、やっと止まった。
すると、体育館のドアがガラガラと音を立てて開いた。
「美凪!」
皆、自然と集合。
美凪の表情は、どこか難しそう。
なにかあったんだろうか…?
「…美凪ちゃん? どうしたの?」
やっぱり、気づいてた……!
和香が美凪に尋ねる。
美凪は意を決したように、口を開いた。
「……実は、T中に練習試合を申し込まれたの」
………。
T中………ですと?
「昨日用があって、ちょっと隣町まで行ったら、T中の副キャプテンに声掛けられて…」
T中って………
なーんだっけ?
あたし、誰か知り合いがいた気が………
する、ような、
しない、ような…………。
「で、その副キャプテンの…………確か、イシカワ…チヅルさん? に『明後日の土曜、練習試合しませんか?』って…」
「……ぅあああああっっっ!!!」
「キャーーーーっ?!」
あたし、絶叫。
隣の蒼乃、悲鳴。
イシカワ チヅルって、
思い出した!!!
幼稚園の時の友達の、石川 千鶴(いしかわ ちづる)だ!
確か、記憶だとすっごい"女子"って感じの子だった気が………
……その千鶴が、バスケ部なの?!?!
「……ちょっと棗ッ! いきなり大声出さないでよ!! 耳壊れるー」
「……ぁあ、ごめん」
美凪に言われ、ちょっと落ち着く。
にしても、嘘でしょ…………千鶴。
和香があたしの肩をゆっさゆっさする。
「棗ちゃーん、落ち着いてぇー」
「あーはいもう大丈夫ですからその手離してくださいます?」
「はーい♪」
あのね、これ意外と痛いのね。
首もげそうになるほど揺さぶらないで。
「…で、棗、なんか知ってるの? T中のこと」
美凪があたしに尋ねる。
あたしは首を横に振る。
「いや、ただ、その石川 千鶴って人、あたし知ってるなぁって」
「えっ?!」
美凪はあたしの顔をずいっと覗き込む。
「じゃ、プレースタイルとかわかる?!」
あたしはまた首を横に振る。
「だって、あたしの知ってる千鶴は、バスケやるような子じゃなかったもん。だから、びっくりして…」
「……あー、そういうこと」
うっわ。
この人あからさまに『役立たず』って顔した。
サイテーサイテー
「…じゃ、なんにもわかんない状態で試合すんのか」
未希が腕組みをする。
「……そういうこと、だよね…」
和香も表情を曇らせる。
「……」
蒼乃は黙ってるし。
「………ま、いっか。じゃ、明日は9時にバス停集合」
「はーい」
バス停ってだけで通じるって、ある意味すごい。
その日は早めに練習(?)を切り上げた。
「T中ってどんなとこだろうね棗ちゃん」
帰り道、蒼乃がそう言った。
「…んー、さぁね」
あたしの頭の中は千鶴でいっぱいだった。
久しぶりに会う千鶴は、どんな子なんだろう? とか、バスケ上手いのかなぁ… とか。
「……勝てるかな、私たち」
「ないない! ぜーったいない!! T中が下手くそだったら話は別だけど」
蒼乃はくすっと笑った。
「…じゃあ、全力で負けよっか」
「ぶっ、なにそれウケるーー」
蒼乃が真顔でそんなことを言うから、あたしは思わず吹き出した。
明日。
ちょっと、楽しみだったりしてね。
最悪最悪最悪最悪ッッッッッ
なんで、なんでよりによって今日、目覚ましの電池切れてんのーーーっっ
おかげで大遅刻だよバカぁっ
集合時間、9時。
現在時刻、8時57分。
絶望的。
あーもうダメだ。
……いっそのこと、仮病使って休むか。
我ながら、ナイスアイディア。
んじゃ、早速美凪にメールを…………
〝ピンポーン〟
……む。
……まさか、まさかだけど……………
そーっと玄関のドアをオープン。
「なぁーつぅーめぇー?」
そこには、般若並みに怖い顔をした人。
「ぅあああああっっっ、ごめんて! すぐ行く!!!!」
あたしは超高速で部屋にUターン。
………あの、美凪さん。
1つ確認いいですか?
あなた様は、女の子ですよね?
「レッツラゴー☆」
「「「いえーーいっ」」」
「ぜぇーー…はぁーーー……」
高柳 棗。
今ので人生の半分のエネルギー消費しました。
そして今更だけど、あたしバス酔いひどいんだった。
酔い止め飲んできてないしーっ………
どっちにしろ、飲む時間なんてないに等しいかったけど。
「…うえぇーーー、やばい……」
ついにきてしまったよ、ヤツが。
バス酔い。
「な、棗ちゃん大丈夫?」
蒼乃があたしの顔を覗き込む。
……あたしこれ、生きて帰れる?
約20分バスに揺られ、やっとT中近くのバス停に到着。
うわーーーーーーっっっ
新鮮な空気最高ッッッッッ!!!!
生きててよかった!!