弱小バスケ部の奇跡





ライトもイマイチなので、お日さまがライト代わりです。


お日さま沈んだら即撤収。






体育館に行くとドアが締め切られていて、中からドリブルの音が聞こえた。




錆びた重いドアを開くと、そこには息を切らした未希がドリブルをしていた。



「未希!」


「あー…個人練習時間終わった」



未希はボールをフロアに置き、水道に走って行った。




「……ね、あたし達、邪魔しちゃった感じ?」


「んー…かもしれない」


和香が苦笑する。





一応持ってきてたジャージに着替え、一応持ってきたバッシュを履き、ボール籠に入った、これまたボロいバスケットボールを手に取る。



ほんの少しひんやりした。




中学から始めたバスケだけど、イマイチ上達はしていない。



そもそもあたしは、球技ダメ。

ど下手くそ。



なのに、なんでバスケやってるんだろうか。




特にドリブルは苦手中の苦手。


ボールに嫌われてる。




下手くそなドリブルを2、3回ついたところで、未希が戻ってきた。



「蒼乃も連れてきたー」


そう言う未希の後ろに、制服姿の蒼乃がひょこっと顔を出した。


「おぉっ、蒼乃!」


「蒼乃ちゃん!」


「蒼乃センパーイ♪」


「それやめんか!」



あたし、すかさずタックル。







「バスケ部、全員大集合っ」


「大集合ってほどの人数じゃないよね」


「うんうん」



美凪に反論した未希に、和香はぶんぶんと首を縦に振る。



あっという間にジャージに着替えた蒼乃も真顔で頷いていた。




「M中バスケ部ッ、ファイトぉーーっっ」


「なに今までロクにやったことないのやってんの」



あたしがそう言うと、和香、蒼乃、未希は揃って笑った。







───M中バスケ部。


いや、まずは『バスケ部』って言ってる時点でちょっと違う。



一応部活ではあるんだけど、部活、と言うよりは、どっちかって言うと同好会に近い。

部費も皆払ってないし。




顧問はいない。


練習日も特に決まってなくて、さっきのあたし達の会話みたいに、気が向いたら程度。




いざ集まって練習!

ってなっても、結局はボール遊び。




すんごくユルい。









因みに、ちゃんとキャプテンとかは決まってる。





#4(キャプテン) 大谷 美凪。

#5(副キャプテン) 原 未希。




ど素人だって、キャプテンが4番で副キャプテンが5番なのは知ってる。



その他3人も一応はちゃんと番号あって、でもそれぞれ好きな番号。



6〜8番まで、あたし、蒼乃、和香で決めた結果。





#6 杉瀬 和香。

#7 高柳 棗。

#8 加藤 蒼乃。





ポジションとやらは、全く決まってません。





キャプテンの美凪はバスケ素人とか言ってるくせに、やけに上手い。


副キャプテンの未希だって、ドリブルセンスがすごいある。





…………あたしはというと……











特になし。







1時間くらいバスケ…というか、ボールに好かれようと努力するあたし。






「よーっし、日ぃ沈んできたから、今日は終わりにしよう!」


「ん、終わろー」



美凪が声を掛けると、未希はドリブルをやめた。




「お疲れー皆」


和香も続いてボールをしまう。






「おつカレー」
「おつかレンコン」




……む?



「きゃはははははっっ!! なぁにそれ2人ともっ!! 思いっきしカブっちゃって〜っっ」




和香、お得意の高笑い。


一体どこからそんな声が出るんでしょうかね?




あたし、いろんな意味で唖然としてます。




「ウチは、蒼乃の『おつカレー』派かな」


「いーやいや、ウチは絶対棗の『おつかレンコン』だよ♪」




未希は蒼乃派、美凪はあたし派、とかなんとか………










「2人はよく気ぃ合うんだって〜♪ ねーっ、棗ちゃんと蒼乃ちゃんっ?」


「………」


「………」


「…ありゃありゃ、無視られちゃったぁ」



そして再び、和香の高笑い。






………なーんでカブっちゃったんだ……。










ー帰り道。


「ね、棗ちゃん、さっき超ウケたね!」




さっきの『おつカレー』と『おつかレンコン』のことですよね。






「……あー………なんであんなグッドタイミングに…………」


「…え、棗ちゃん?」






終始、あたしの頭はそれで埋め尽くされたのだった。









それから、約1週間後。




あたしは今日もボールに懐いてもらおうと頑張ってドリブル特訓中。



隣の未希はやっぱり上手い。


フロントチェンジとか、ロールとか、難なくすいすいとこなしている。



下手くそとはわかっていながら、ちょこっと真似てみる。





───フロントチェンジ




「…っあ」



ドリブルつく位置を失敗し、ボールは見事に足直撃。



ボールはコロコロ転がって壁に当たって、方向を変えてまた転がっていった。




ボールは体育館入口まで転がり、やっと止まった。





すると、体育館のドアがガラガラと音を立てて開いた。








「美凪!」



皆、自然と集合。





美凪の表情は、どこか難しそう。


なにかあったんだろうか…?





「…美凪ちゃん? どうしたの?」



やっぱり、気づいてた……!



和香が美凪に尋ねる。





美凪は意を決したように、口を開いた。





「……実は、T中に練習試合を申し込まれたの」






………。



T中………ですと?





「昨日用があって、ちょっと隣町まで行ったら、T中の副キャプテンに声掛けられて…」




T中って………


なーんだっけ?

あたし、誰か知り合いがいた気が………





する、ような、



しない、ような…………。









「で、その副キャプテンの…………確か、イシカワ…チヅルさん? に『明後日の土曜、練習試合しませんか?』って…」






「……ぅあああああっっっ!!!」


「キャーーーーっ?!」





あたし、絶叫。

隣の蒼乃、悲鳴。






イシカワ チヅルって、


思い出した!!!





幼稚園の時の友達の、石川 千鶴(いしかわ ちづる)だ!



確か、記憶だとすっごい"女子"って感じの子だった気が………





……その千鶴が、バスケ部なの?!?!






「……ちょっと棗ッ! いきなり大声出さないでよ!! 耳壊れるー」


「……ぁあ、ごめん」



美凪に言われ、ちょっと落ち着く。







にしても、嘘でしょ…………千鶴。







和香があたしの肩をゆっさゆっさする。



「棗ちゃーん、落ち着いてぇー」


「あーはいもう大丈夫ですからその手離してくださいます?」


「はーい♪」




あのね、これ意外と痛いのね。


首もげそうになるほど揺さぶらないで。





「…で、棗、なんか知ってるの? T中のこと」



美凪があたしに尋ねる。


あたしは首を横に振る。




「いや、ただ、その石川 千鶴って人、あたし知ってるなぁって」


「えっ?!」




美凪はあたしの顔をずいっと覗き込む。



「じゃ、プレースタイルとかわかる?!」


あたしはまた首を横に振る。


「だって、あたしの知ってる千鶴は、バスケやるような子じゃなかったもん。だから、びっくりして…」


「……あー、そういうこと」





うっわ。

この人あからさまに『役立たず』って顔した。



サイテーサイテー





「…じゃ、なんにもわかんない状態で試合すんのか」


未希が腕組みをする。



「……そういうこと、だよね…」


和香も表情を曇らせる。



「……」


蒼乃は黙ってるし。