弱小バスケ部の奇跡






あたしはボールを持ち、和香の元へ小走り。




「えー、最後の最後で棗ちゃんかぁ…やだなぁ」



おいコラ。

本人目の前にして文句言うなっ!



「だってさー、さっきの未希ちゃんとの見たらドリブル速すぎて、和香絶対ついてけなーい」





………諦め早。


あのね和香さん。

あたしなんかよりもっと速いドリブルするお方がいるのよご存知?





そのお方は、何を隠そう、原 み………

「棗ちゃん! 早く!」



こんにゃろう。

妨害すんなや。










ボールを持ち、軽くドリブルをしながら和香と向かい合う。




………そういえば、前に未希が〝目のフェイク〟とかなんとか言ってたな…。


頭のどこかでそんなことを思い出した。




…ちょっとだけ、やってみようかな………






あたしは右ドリブルでスピード勝負したいから、目線は左。




和香は───







見事に引っかかってくれた。



和香の神経が左に集中してわずかに左にずれたすきに、あたしは一気に右ドリブルで和香を抜き去った。





あっという間にエンドラインに着くと、未希が「ナイス!」と笑う。




「〝目のフェイク〟やったでしょ」


「っえ」



未希には、ほんとに全部お見通しみたいだ。



「和香が、ほんの一瞬左にずれたのが見えたから」



未希は笑ってそう言った。







やがて後ろから和香が息を切らして走ってきた。



「ほーら、だから、やだったんだ、んだよー。速い、からさ、棗ちゃん」




息切れすぎじゃないすか和香さん。

んだよー、だって。






「はーい! じゃあ、チェンジして戻ってきてーっ」


向こうから美凪が叫んだ。




未希と蒼乃ペアが先だから、あたしは未希のプレーを後ろから見る。





やっぱり、未希のディフェンスは上手い。


蒼乃は苦戦しながら、向こうのエンドラインまで行っていた。





「棗ちゃん、最後だよ、頑張ろ!」


「うん」



和香は、さっきまでの疲れを感じさせない笑顔でそう言った。




和香のいいとこって、どんな時でも笑顔でいることだよね。


T中との練習試合の時も、笑いながらバカ言って場の空気和らげたし。




和香の存在は、これからのあたし達にとって重要な存在になるだろう。


どんなに辛い練習があったとしても、和香の笑顔で乗り越えられる気がするよ。





だから、もしその時には、よろしく和香。








翌日。

火曜の朝のHR前。




「やーもう筋肉痛ーっ、いたーい」


「もー朝からうっさい! 筋肉痛だろうとなんだろうと、スポーツにはそんなのつきもの! それだけ今まで動いてなかったってことでしょ」



太ももをさする和香に、未希がぴしゃりと言い放った。




「ゔぅ……いだい」


「っんとうるさいばかっ! 筋肉痛だろうと腰痛だろうと泣き言言うなっ」


「「「「今は腰痛は違う!!!!」」」」



美凪を除く他4人、見事にハモる。







妙に長い沈黙。


あたし達だけじゃなくて、なぜかクラス全員しん、と静まり返る。










やがて、美凪が恐る恐る尋ねた。




「……え、ウチ、筋肉痛以外になんて言った?」


「「「「「「「「腰痛。」」」」」」」」




今度はクラス全員でハモる。





「……っはい大変失礼しましたすいませんごめんなさいもう言いませんから担任には言わないでください」






「……ふはっ」


「美凪ちゃんウケるーッ」


「今のよく噛まなかったね」




蒼乃が口元を抑えて笑い、和香はお得意の高笑い。





あたしは、まぁ、褒めることにしました。

つか、なに、担任には言わないでください?



ちょ、カンチガイしないでよ美凪。


あたし達、幼稚園児じゃないすからね。





だーめなんだーだめなんだー、せーんせいに言ってやろー!








…とかは、まさか言いませんから。








放課後。




「しゅうごーう!」


「「「「はいっ!!!!」」」」



それまでフリーで練習してたあたし達は、美凪の一声で集合する。


今日は、なんの練習だろう?





「今日から、いよいよシュート練習します!」


おぉ、と誰かが言った。




シュート練習か。

いよいよ、だ。




「じゃあ早速だけど、シュートの基本中の基本、レイアップの練習から始めよう!」




そしてレイアップ!!


これは、さんざん練習したから大丈夫。




あれは、忘れもしません。








美凪が手本をやって見せる。



「右レイアップは、右足から1、2歩ステップ。左足で踏み切ってジャンプね」





───スパッ


おぉ、ナイッシュー。

さすがキャプテン。




「皆知ってるだろうけど、3歩以上歩いたらトラベリングだからね」


美凪が付け足してそう言う。



※トラベリング
ボールを持ったまま3歩以上歩くと、トラベリングとなり、相手ボールになる。





「じゃ、まずは未希」


「はい」


美凪が未希を指名し、未希は数回ドリブルをついてから速いスピードでゴールに向かう。










もちろん未希は、




───スパッ



「わあっ、ナイッシュー未希ちゃん!」


和香が未希に拍手を送った。



「未希は、さすがって感じだね」


美凪は和香ほどオーバーリアクションはせず、もう次を指名する。




「じゃ、次は未希の見て騒いだ和香」


「ちょっ、騒いでなんかないっ!」



ぎゃーぎゃー言いながら、和香はゴールに向かう。



ドリブルはまだ上手いとは言えないけど、Cにしてはすごい上手い。









でもまぁ、そうは上手くいかないもんで。





───ガゴンッ

「きゃーーーーっっ」




放たれたボールは、バックボードに当たり跳ね返った。






……けど、


ちょっとなんなの和香。



シュートした瞬間、謎の奇声。




「…な、なんなの今の奇声は」


美凪が眉を顰める。




和香は頭をがしがしかきながら笑った。




「なんか、ステップが上手くいかなくて、シュート打った瞬間ボール跳ね返ったから、なんか叫んじゃった☆」



舌をぺろりと出す和香。




……おいおい。


それとこれの繋がりがわかんないよあたし。